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八墓村-第七章 木こ霊だまの辻つじの恐怖(6)

时间: 2022-06-16    进入日语论坛
核心提示:「いいえ、金持ちになんかならなくたって、兄さんが申し込めば美也子さんは、よろこんで受け入れるにきまってるわ。お兄さま。美
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「いいえ、金持ちになんかならなくたって、兄さんが申し込めば美也子さんは、よろこんで受け入れるにきまってるわ。お兄さま。美也子さんが、あんなに美しくて、利口で、金持ちの美也子さんが、どうしてこんな草深い田舎に、いつまでも引っ込んでるのか、おわかりにならないの。美也子さんは待ってるのよ。兄さんの申し込みを一日千秋の思いで待ってるのよ。それを思うと美也子さんも気の毒だわ。兄さんもつまらない意地をすてて、さっさと結婚してあげればいいの。……ほんとうはわたし、美也子さんがあんまり好きじゃないのだけれど……」

それから間もなく典子は、お弔いの用意でいそがしいからと、見張りの眼をぬすんで帰っていったが、そのとき私は、なんともいえぬ侘わびしい空虚感におそわれたのであった。

典子の話に私は大きなショックを感じていた。一昨夜、「天狗の鼻」で立ち聴きした話といい、いまの典子の話といい、私はいまさらのように美也子という女の複雑な性格、微妙な心理の翳かげりに驚かずにはいられなかったが、それは同時に私にとって、このうえもなく寂しい、やるせない思いだった。ああ、私は美也子に恋していたのだろうか。

それはさておき、典子はそのつぎの日も監視の眼をくぐって、私のところへやってきたが、そのとき彼女はこんなことをいった。

村のひとたちの激げっ昂こうは依然としてとけず、警察のどんな説得も勧告もうけつけるけしきはないが、それでもここにかすかながらも、希望の曙しょ光こうが見えてきたというのは、麻呂尾寺の長英さんが動くかもしれぬといううわさがあるというのである。麻呂尾寺の長英さんは、もうよほどの高齢で長く老病に臥ふしており、寺の仕事いっさいは弟子の英泉さんにまかせているが、この高僧が説得すれば、村のひとたちも納得せぬことはあるまいというので、なんでも金田一耕助が、麻呂尾寺へ頼みにいっているというのである。

麻呂尾寺の長英さんときいて、私ははっと思い出したことがある。殺された梅幸尼はいつかこんなことをいったことがある。あなたの身の上に関することで、私と麻呂尾寺のお住持さまだけしか知らないことがあると。梅幸尼の死後、私はいつか麻呂尾寺を訪れたいと思いながらも、つぎからつぎへと起こる事件にいままで果たすことができなかったのだが。……

「典ちゃん、それがほんとうならありがたいね。ぼくはもうこんな暗闇のなかにいるのいやになったよ」

「ええ、だからもうしばらくの辛抱よ」

「ところで、典ちゃん、もうひとつのことはどうだった?」

「ああ、糸のこと? 糸ならここに持ってきたわ」

「いや、糸も糸だが、ほら、小指にけがをしてるひとのことさ」

「ああ、あのこと」

典子はちらと私の顔をぬすみ見すると、ぎごちなく空から咳せきしながら、

「あたしずいぶん気をつけてたけれど、指にけがしたひとなんかひとりも見なかったわ」

だが、そういう典子の様子には、どこか怯おびえたようなところがあり、まともに私の顔を見ようともしなかった。

「典ちゃん、それ、ほんとうかい。うそをついて、だれかをかばってるんじゃあるまいね」

「あら、そんなことないわ。お兄さまをだますなんて。……それよりお兄さま、せっかく糸を持ってきたんだから洞窟を探検しましょうよ。今日は少しぐらいゆっくりしてもいいの。ねえ、宝探しだなんて、ずいぶんロマンチックじゃないの」

典子は急にはしゃいだ調子になって立ち上がった。ああ、典子は指にけがをした人物を知っているのだ。そしてその人物をかばっているのにちがいない。だが、ああ、だれを……?

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