名山霊峰
A名山めぐり訪中団の皆様、よくいらっしゃいました。私は李と申します。これから、しばらくおともさせていだだきます。
どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
B よろしくお願いします。
A今日から二日間、泰山をごあんないさせていただきます。高い山でございますので、できるだけ運動ぐつをはいって、ハイヒルや革靴などはご遠慮ください。
cはい。私はわざわざ布靴を買ってきて、ほら、はいていますよ。軽くて気持ちのいいものですよ。
A皆様もご存知のとおり、中国には「五岳」と呼ばれる五つの名山がございます。泰山は「東岳」といい、「天下第一の名山」として昔からの有名な山でございます。
Bええ。1987年12月、泰山は国連ユネスコから「世界の自然遺産」と指定されましたね。中国の山では第一号というべき存在ですね。
Cそおですか。よくご存知ますね。
A泰山は、雄大なことで、その名を知られているのでございます。
Cまあ、なんと長い石の階段ですこと。
Aはい。泰山のふもとから頂上まで、石の階段が7000もございますが、そのうち一番険しい「十八盤」と言うところだけでも、1500段ございます。まるで雲の中の階段という感じで、ずーっと、頂上に近い南天門につついています。
B天門とは、天に登る門でしょうね。
Cほら、あの南天門の周りを雲が流れてますね。あたかも仙境のよてすわ。
A南天門からもう少し登れば、玉皇頂に着きますが、そこで日の出を見るのは最高でございます。
BCさん、がんばって
Cああ、息が苦しい、足が棒になったわ。
A一休みしましょうか。
Cはい、ちょっと休んで。あのう、日の出を見るのに間に合うでしょうか。
A間に合います。ただし、日の出を見るために、早めに出かけなければなりません。それに夏でもオーバーをはおらなければなりません。
Bそれほど寒いのですか。
Aはい。高い山でございますから。
C寒ーい。
Aもうしばらく我慢してください、ご覧ください。東の空がしらみはじめてまいりますした。
Bほら、その上には青色の雲が群がってきましたよ。
Aよくご覧ください。青っぽい雲の中、金色に光輝かいていますよ。
B出た!出た、太陽が出てきました。万歳!
Cまあ、すばらしい日の出でしたわ。
B富士山でご来迎を見たころのことが思いでされましたよ。
Cああ。なつかしいわ。本当にきれいだわ。
Aこれから、「五岳」のうちの「西岳」と言われる崋山にの登りますが、ご用意はできましたか。
Bはい、できました。崋山は険しいことで有名だそうだから、油断してはいけませんね。
Cそうですわよ。崋山は断崖絶壁ばかりだと言われて、もうさっきからびくびくどうし。
A険しいことは険しいのですが、山を登るとき、足元に気をつけさえすれば大丈夫でございます。
それなら、歩く時は景色をみないこと、景色を見ようと思ったら、是非立ち止まってみること、
これは、いずれも経験から得た教訓ですから、忘れないように。
Cはい、よく分かりました。
A今日は登山靴のほうがよろしゅうございます。
Bはい、ちゃんと履いていますよ。
Aでは、そろそろ登りましょうか。
Cまあ、この道は大変ですね。ほかの道はないんですが。
Aはい。「崋山古より道一筋のみ」と言われているように、頂上までつづく道はこの一本しかないのでございます。
Cそういえば、上り下りともこの一本の道ですね。
A崋山の「険」と言えば、一本しかない道のほかにも、いろいろエピソードがございます。
Bそう、一番有名なのか「韓愈投書す」でしょうね。
Aはい。唐の時代の文人の韓愈は蒼竜嶺を登った時、下をみれば千仞の谷、振り返ってみれば、
白い雲のみなので、もう帰りそうもないと思って遺書まで書いて涙をこぼしながら谷に投げたという。結局、同行の者がお酒を飲まして酔わせ、やっとのことで、山から担ぎ下ろしたそうでございます。
B今でも、蒼竜嶺へ行ったら、岩に彫ってある「韓愈投書処」と言う大きな字がみえますよ。
Aあのう、どうかなさったのですか。
Cここの道は狭くて急ですね。両手ついて這うよりほかないんですね。
Aさあ、手をお貸ししましょう。
Cあ、どうも。
A「少林寺」のことはご存知ですか。
Bうん。特に、あの少林拳法で有名ですね。
A「少林寺」の大本山といえば、河南省の嵩山で、これも五大名山の一つでございます。
B河南省は昔の中原で、そのため、嵩山も「中岳」になるはずですね。
Aまったくそのとおりでございます。しかし、嵩山と言う山は泰山、崋山ほど有名でございませんが、それでも、中華門や中岳大殿など、りっぱな建築が11ほどございます。
Cあらみて、あれが嵩山でしょう。
Aはい、嵩山に着きました。
B少林寺はどちらにあるんですか。
A先生も少林には少なからず興味がおありですね。
Bそうですとも。すごい拳法ですから。
A実は嵩山は太室山と少室山とに分かれ、伝説によりますと、夏の愚王の二人の夫人がそれぞれ住んでいた所で、上の夫人が太室、二番の夫人が少室と言われたので、山の名前ができたというわけです。少林寺は、その少室山北麓にある五乳峰のふもとにございます。
Cあら、おかしな達磨さんじゃない。
Bうん。なるほど、この達磨さん、足があるね。
A面しろいでしょう。ほんとうは達磨さんにはもともと足がついたのでございます。
Cほんとうですか。
Aはい、達磨亭の入り口には対句がございますから、ご覧ください。
Bあ、そう。
達磨静座して壁に面むくこと九年
説法論道すれば頑石もうなずく
なるほど。面壁九年って、つまり九年間ずっと壁に面と向かって座ったままでしたね。それで、足が萎えてしまって、その後、達磨には足がないと言われるようになったのでしょうね。
Cああ、そうなんですね。
A少林寺は唐の初めにできたお寺で、かつて、数多くの建物をもっておりましたが、後にほとんど戦争で焼け、今は明の時代の千仏殿と白衣殿ぐらいしか残っておりません。
Cあら、あれは塔林でしょう。何百もあるようですね。
Aはい。塔林は少林寺歴代の和尚さんの墓地で、唐から清まで千年余りの間にできたものでございます。220余りあると言われております。
Bこれらの塔は、石やレンガでできていて、ほとんど同じスタイルですね。あっ、ここの日本人の僧のお墓もありますね。ほら、「昭元明の洪武二年(1369年)に建立」とかいてありますよ。
Aこれから、境内で少林拳法を見せてくれますから、庭のほうへおいでになってください。
Cまあ、ご親切に。どうも。
A三つ山に登って参りましたから皆様もずいぶんお疲れになったでしょう。後残りの山は、山西省にある恒山と湖南省にある衡山とのふたつだけでございます。
B後の二つの山は昔は有名だったかもしれませんが、今は、PRさえも余り見られないんですね。
Cところで、「五岳」のほかに、まだ何か見るべき山があるんでしょうか。
Aはい。ございます。例えば、安徽省の黄山、江西省の櫨山、四川省の峨眉山など、いずれもその名にふさしい名山でございます。
Bそれでは、次は黄山にしましょう。