2級読解80
自分の飼っている犬は泣いたことがあると主張(しゅちょう)する人がいる。またある種の記述によれば、(注1)サーカスで飼われている象は涙を流すという。(注2)ヒト以外にも涙を流す動物がいるのだろうか。( ① )②これらの報告は、非科学的な誤った記述なのだろうか。そうではなく、一見奇妙(きみょう)に思えるこれらの報告は、二種類の異なった涙を同じものとしてしまった誤りのように思われる。というのは、ヒトにおいては、感情が高ぶったときに流される涙(感情の涙)と、目にゴミが入ったときなどに流される涙(連続性の涙)は、明確に区別されているからである。
自分の飼っている犬は泣いたことがあると主張(しゅちょう)する人がいる。またある種の記述によれば、(注1)サーカスで飼われている象は涙を流すという。(注2)ヒト以外にも涙を流す動物がいるのだろうか。( ① )②これらの報告は、非科学的な誤った記述なのだろうか。そうではなく、一見奇妙(きみょう)に思えるこれらの報告は、二種類の異なった涙を同じものとしてしまった誤りのように思われる。というのは、ヒトにおいては、感情が高ぶったときに流される涙(感情の涙)と、目にゴミが入ったときなどに流される涙(連続性の涙)は、明確に区別されているからである。
この区別には、いくつかの証拠(しょうこ)がある。たとえば、目の表面に麻酔(ますい)をかけると、「連続性の涙」は止まってしまうのだが、「感情の涙」は影響を受けない。目に麻酔をかけられた人は、煙(けむり)にさらされよ(注3)うが、目にゴミが入ろうが涙が出なくなるのだが、悲しみによって涙を流すことは(注4)依然(いぜん)として可能なのである。
ここで再(ふたた)び動物が流す涙について考えてみる。( ③ )、(注5)そもそも目を(注6)うるおすという生理的な目的のために流される「連続性の涙」については、(注7)霊長類(れいちょうるい)はもちろん、動物全般にごく普通に共有されているものであろうことは容易に想像がつく。実際ある種の海鳥は、海水に含まれる塩分から目を守るために、「連続性の涙」を流すことがある。
しかし、( ア )については、正確で信用できるような報告はない。動物が( イ )を流したといういくつかの報告は、この( ウ )を過剰(かじょう)に解釈(かいしゃく)したものが多く含(ふく)まれるように思われる。结局、真の問題点は④動物の内的状態がわからないということにあるのだが、この点は今後、涙とは別の客観的な指標(しひょう)を用いて、動物の内的な状態を推側することで解決できるものと思われる。
だが、ここで重要なことは、「感情の涙」がヒト以外の動物にもあるのかということよりは、むしろそれがヒトに特徴(とくちょう)的にみられるという点である。⑤「感情の涙」こそ、ヒトという生物を考えていく上で重要なのである。
(金沢創「『涙』の進化論」による)
(注1)サーカス:多くの動物を使って、曲芸などを興行しながら各地を巡業する旅芸人の団体。
(注2)ヒト:生物学的に分類するとき人類。
(注3)~うが~うが:~ても~ても、関系なく。
(注4)依然(いぜん)として:元のままである様子。
(注5)そもそも:はじめから。元来。
(注6)うるおす(潤す) :水分を含ませる。湿(しめ)らす。
(注7)霊長類(れいちょうるい):サルやヒトの仲間。
問1 ( ① )に入る適当な語はどれか。
1 それとも 2 しかし
3 そして 4 さらに
問2 ②「これらの報告」について、筆者はどのように考えているか。
1 ヒト以外の動物も感情の涙を流すことがある。
2 ヒト以外の動物が感情の涙を流すことはない。
3 感情の涙と連続性の涙を混同している可能性がある。
4 ヒト以外の動物が涙を流すかどうか、まだ確認できていない。
問3 ( ③ )に入る適当な語はどれか。
1 すると 2 だから
3 それでは 4 それでも
問4 ア、イ、ウに入る語の組み合わせとして、正しいのはどれか。
1 ア:「連続性の涙」 イ:「感情の涙」 ウ:「連続性の涙」
2 ア:「感情の涙」 イ:「感情の涙」 ウ:「連続性の涙」
3 ア:「連続性の涙」 イ:「二種類の涙」 ウ:「感情の涙」
4 ア:「感情の涙」 イ:「連続性の涙」 ウ:「二種類の涙」
問5 ④「動物の内的な状態がわからない」とあるが、具体的には何がわからないのか。
1 ヒト以外の動物はどのようなときに涙を流すのか。
2 ヒト以外の動物の動物が流す涙は、感情の涙か連続性の涙か。
3 ヒト以外の動物は何のために涙を流すのか。
4 ヒト以外の動物にもヒトと同じような感情があるのかどうか。
問6 ⑤「『感情の涙』こそ、ヒトという生物を考えていく上で重要なのである。」とあるが、筆者が主張したいことは何か。
1 「感情の涙」を流すかどうかこそが、ヒトとヒト以外の動物の違いを示す指標である点が重要だ。 2 ヒト以外の動物が「感情の涙」を流すかどうかということより、ヒトが感情を持ち、感情の涙を流す動物だということが大切だ。
3 ヒト以外の動物が「感情の涙」を流すかどうかということを研究しても、ヒトの生活を向上させる上で何の役にも立たない。
4 ヒト以外の動物が「感情の涙」を流すかどうかという研究は、ヒトという生物を知る上でも重要な研究である。