第六章 日本の各地方
第一節 北海道地方
第一節 北海道地方
北海道は日本の北端を占めている地域で、ロシアのサハリンや千島列島に接している。面積は83.513平方キロメートルで、日本全国の約22%を占めているが、人口は約5%を占めて人口密度は日本で最も低い。
昔、蝦夷地と呼ばれ、アイヌ民族が住んでいた。それで、現在も北海道の地名はアイヌ語に由来するものが多く、ほかの地方と異なっている。明治時代、北海道と呼ばれるようになり、本州からだんだん人々はやってきて、政府の手によって積極的に開発が進められるようになった。今は500万人を超えた。
北海道には本州に比べて雄大な山地や火山があり、火山灰に覆われた広い台地が多い。中央部では、北見山地と日高山脈が南北に走っており、北海道を東部と西部に分けている。東部には十勝平野・釧路平野・根釧台地などの大きな平地が広がっている。西部には南北に並ぶ名寄盆地・上川盆地・富良野盆地などの盆地を隔てて、天塩・夕張山地があり、夕張山地の西側を流れる石狩川に沿って、北海道第一の石狩平野が開けている。また、札幌の南西にある山地の西側には渡島半島が突き出ている。
なだらかな北見山地は、高さが1.000メートル前後で、峠も低い。この山地は針葉樹・広葉樹の森林に覆われ、北海道の木材の宝庫とも言われている。北見山地の南に続く日高山脈は高くて険しい峰と深い谷を持っている。この山脈の東側は急な崖となって、十勝平野に臨んでいる。高原のような天塩山地は高さが500~600メートルで、この山地の北側には、サロベツ原野が広がっている。天塩山地の南に続く夕張山地は天塩山地と反対に、尖った峰や、急な崖を持っている。この山地の東側は1.000メートルを超えるが、西側は次第に低くなって、山裾には石狩炭田が広がっている。
千島火山帯は、知床半島を通って南西に伸び、摩周湖や屈斜路湖のように火山の上部が落ち窪んでできた湖や、雌阿寒岳のように広い裾野をもつ火山をつくっている。また、胴体部の山地とぶつかる所には、北海道で一番高い旭岳(2.290m)をもつ大雪山や、十勝岳などをつくっている。大雪山から噴出した溶岩や火山灰の層は石狩川の上流に刻まれて、層雲峡という美しい峡谷をつくっている。渡島半島は、那須火山帯が伸びてきているので、多くの火山がある。また、火山によってつくられた湖があり、温泉が至るところに湧き出している。
北海道の胴体部の海岸線は、東に知床半島と根室半島、北に宗谷岬、南に襟裳岬が突き出しているだけで、後は弓なりの滑らかな海岸線になっている。一方、半島部の海岸線は出入りが多く、所々によい港がつくられている。
北海道は日本の北の端にあるため、夏は涼しく、冬は寒さが厳しい。年平均気温は九州地方より約10度も低く、寒い冬の期間が長く、春と秋は短い。日本海側では、冬の季節風の影響を受けて、雪がたくさん降り、天塩山地・渡島半島の西側、中央部の大雪山付近では、2~3mも積もるところがある。オホーツク海沿岸では、冬は流氷のため航海ができなくなる。内陸の盆地では、夏はかなり高温になる。東部の根釧台地では、春から夏にかけて、ガスと呼ばれる濃霧がかかり、気温の上がらないことが多い。
胴体部の山地に挟まれた、北から南に続く名寄盆地・上川盆地・富良野盆地はいずれも農業に適した土地である。大きな平野は石狩平野と十勝平野で、上川、名寄などの盆地とともに、重要な農業生産地となっている。北海道の耕地の約四分の三は畑で、機械力を利用した粗放的な農業が営まれている。冷涼な気候に適した作物(ジャガイモ、豆類、甜菜、玉ねぎ)を生産している。上川盆地と石狩平野の北東部には、北海道の水田のほぼ2/3があって、米作りの中心地となっている。十勝平野や網走地方の平野は、畑作中心の農業が行われている。とくに十勝平野は日本で一番農家の規模が大きい地域として知られている。
また、北海道で最も重要な作物は米で、一番広い作付け面積を持っている。北海道の稲作は単作であり、その中心地域は、夏高温の石狩平野や中央部の上川・富良野などの盆地である。自然の条件から考えると、北海道は稲作には不利なところである。しかし、農家の努力や日本政府の援助によって、稲作は次第に北進し、今では、北端部や海霧のかかる南東部を除いて、ほぼ全道に米が作られ、収穫も次第に安定してきた。稲作の成功は、寒さに強い品種を作り、耕作の方法にも保温折衷苗代などの工夫を凝らした結果である。政府の保護によって、米の値段が安定しているため、ほかの作物に比べて有利なことも、稲作の広がった大きな理由である。
北海道には牧場が多く、酪農が発達していることも北海道の特色で、乳牛頭数や乳製品生産額は日本一である。石狩平野と根釧台地は酪農の中心地域である。日本の家畜飼育頭数はアメリカやオーストラリアなどの国と比べれば、きわめて少ない。これは、日本の国土が山がちで牧場にあてられる土地が狭いこと、できるだけ多くの土地を米を主とする食糧の生産にあてたので、牧草地や草地ができなかったこと、日本人が動物性蛋白質を主に魚類に求めてきたことなどによる。しかし、近年は、食生活が変化し、肉牛・乳牛・豚・鶏の飼育が著しく増加している。日本は、農業の経営規模が小さく、家畜の飼料を自給することは難しいが、その中で、北海道には、約40万ヘクタールの牧草地があり、日本の牧草地全体のおよそ4分の3にあたる。しかも、その大部分は牧場になっており、牛や馬が放し飼いにされている。
北海道は、割合広い牧草地がある上に、気候が涼しいので、酪農に向いた土地である。酪農は、初めは石狩平野が中心であったが、今は根釧台地が中心地域となり、北海道庁の援助もあって、パイロットファ-ムやさらに規模の大きい酪農村の建設も進んでいる。農家は、夏は乳牛を放牧するが、冬は大きなサイロに貯えた飼料を与えて、家畜小屋の中で飼う。今では、北海道は、日本最大の酪農地域となり、乳牛の頭数は、日本全国の30%以上を占めている。とれた牛乳は森永・明治などの工場でバター・チーズ・練乳・粉ミルクなどに加工され、日本全国に送り出されている。一方、北海道の酪農の発展にも問題が多い。酪農は規模を大きくするほど多くの資金が必要で、そのため借金が増えやすい。また、乳製品は安い輸入品との競争が激しく、有利な生乳のままで大都市へ出荷するためには、輸送費が高くつくことや鮮度を保つうえでの問題も多い。
水産業は北海道で最も早く開けた産業であり、漁獲量が極めて多い。北洋漁業も発達を遂げているが、第二次世界大戦後、国際的な制約を受けている。旧ソ連が占領している千島列島には、日本固有の領土があるので、日本はその返還を主張している。北海道の近海は大陸棚が広く、世界の3大漁場の一つになっている。鱈・烏賊・鮭・鱒・蟹・昆布などがとれ、その漁獲量は、日本全体の30%以上を占めている。北海道には、およそ250の漁港がある。主な漁港には函館・釧路のような遠洋漁業の根拠地となる大きな漁港をはじめ、稚内・紋別・根室・小樽などがある。京浜などの大消費地に遠いので、水揚された魚の多くは、冷凍品や缶詰・干物などに加工され、各地に送り出される。
北海道の太平洋側の沖には、暖流の日本海流が流れ、また、西部の海岸沿いにも、暖流の対馬海流が流れている。寒流には、千島列島から南下してくる千島海流と、日本海側の沖を流れる、リマン海流とがある。潮境と呼ばれる暖流と寒流が触れ合う所には、魚の餌が多いので、魚が沢山集まる。世界で有名な漁場は、いずれもこのような所にある。遠洋漁業の中で最も盛んなのは、鮭・鱒漁業である。5月ごろ、大漁業会社の母船を中心に、独航船が30隻ぐらいで船団を組み、函館・釧路・根室の基地から出航し、アラスカやカムチャッカ半島の沖まで行き、8月ごろまで活動する。独航船には、東北地方などの漁業者も加わり、とった魚は契約に基づいて母船に売る。母船はこれを船内の工場で冷凍や塩漬けにするほか、缶詰にもする。
そのほか、北方四島(歯舞諸島、色丹島、国後島、択捉島)の周りには昆布・鱈・鮭・蟹・ほたて貝などの海産物があり、水産資源の宝庫である。
北海道は日本では最も重要な石炭産地である。石炭の質も良く、埋蔵量も多いので、生産量は日本全国の約6割を占めている。中でも石狩炭田は北海道で一番大きい炭田である。この炭田には、夕張新鉱・幌内・芦別などの大きな炭鉱があって、北海道の石炭工業の中心地になっている。しかし、外国から安い石油が大量に輸入され、石炭の需要が減っているため、北海道でも炭鉱があいつぎ閉山された。
北海道にはまだ大規模な工業地帯は成立していない。しかし、農産物を原料とするものには甜菜糖工場、乳製品工場、ビール工場、澱粉工場などがある。その中で、乳製品とビールの生産は全国に市場を独占的企業に発展している。また、豊かな木材を原料として、製紙、パルプ工業も盛んで、苫小牧は日本の代表的な製紙工業都市になって、釧路・旭川・江別にも大きな製紙工場があり、全国の新聞用紙の約半分は北海道で生産されている。その他、函館にはセメント工場、札幌や小樽にはゴム工場がある。重化学工業では、室蘭の製鉄、函館の造船、砂川の化学肥料などを除いては、全体に遅れている。近年、苫小牧に自動車工場もできている。また、函館・室蘭は北海道の造船工業の中心にもなっている。現在、北海道では札幌、室蘭、苫小牧を中心とする工業地帯を建設することを目指している。
札幌は北海道道庁所在地で、道の政治、経済、文化の中心地で、日本の十一大都市の一つで、現代の国際都市になって、有名な国立北海道大学(旧帝国大学)が札幌市の中心地に位置している。札幌のほかに函館、旭川、小樽、室蘭、釧路、網走、帯広などの中小都市がある。小樽、苫小牧、函館などは港町で本州の各地と結ぶフェリーが走っており、千歳は北海道の空の玄関である。北海道には国立公園が五つもあって、自然美を誇る観光地が多い。その中で、知床、阿寒、大雪山、支笏洞爺湖や登別温泉などが最も人気をひくものである。
北海道にはアイヌ民族がいる。アイヌはもともと狩猟や漁労を行う民族で、鮭・鹿・などの肉を食べて生活し、農耕はほとんど知らなかった。ところが、本州から人々が北海道へ渡るようになってから、こうしたアイヌの生活は、大きく変わっていたのである。現在、アイヌ人の暮らしは普通の日本人とほとんど同じである。