第六章 日本の各地方
第四節 中部地方
第四節 中部地方
中部地方は本州の中央部にあり、関東、近畿の二地方の中間にある。中部地方の日本海側には新潟、富山、石川、福井の4県があり、これを北陸地方と言い、太平洋側には静岡、愛知の2県があり、これを東海地方と言い、中央部には海に面しない山梨、長野、岐阜の3県があり、これを中央高地と言う。中部地方の面積は関東地方の約2倍あるが、人口の半分以上は太平洋側に集中している。
中部地方は、近畿地方と関東地方に挟まれ、関東方面が発達しはじめてから、ここを通る東海道と中山道の2街道は江戸と京都・大阪を結ぶ重要な交通路になり、都と東国を結ぶ廊下の役目を果たしてきた。関東方面の発達につれて、街道に沿った宿場町や城下町が栄え、沿道の開発も進んだ。北陸では、京都と東北地方を結ぶ北陸道のほか、東北地方の物資を京都・大阪へ運ぶ海上交通が盛んになり、新潟・敦賀などは当時の日本の重要な港であった。
現在、東海地方は、新幹線や名神・東名高速道路が整備されて、日本の大動脈となっている。それに沿った大小の都市が大きく発展し、ことに名古屋市は商工業が盛んで、東京・大阪に次ぐ大都市になっている。関東と関西の間にあるこの地方は京浜と阪神を結ぶ重要な工業地域に発展している。東海地方には、太平洋に注ぐ木曾川・天竜川・大井川・富士川などがある。海に近い所は、川が運んだ土や砂が積もって、平らな平野が並んでいる。木曾川は、木曾山脈と飛騨山脈の間を流れ、その下流には濃尾平野が開けている。濃尾平野には、早くから農業が発達しており、また交通の便が良く、日本の中心部にあるので、工業も発達し、名古屋や岐阜などたくさんの都市ができている。海岸線は、伊豆半島・駿河湾・伊勢湾など出入りが多い。伊勢湾は、波も静かで、港をつくったり、埋立地をつくったりするのが簡単なので、名古屋付近の工場はどんどん海岸に集まってくる。駿河湾の沿岸には、良い漁港が発達している。
中央高地には、ほぼ南北の方向に、高さ三千メートル前後の飛騨山脈・木曾山脈・赤石山脈が連なっている。これらは日本で一番高いところで、日本の屋根(アルプス)といわれている。中央高地は、日本でも指折りの温泉の多い地方になっている。山脈の間には、富士川の甲府盆地、信濃川の長野盆地・松本盆地、天竜川の諏訪盆地・伊那盆地があり、盆地の周りに緩やかな斜面になっているところがある。中央高地から太平洋に向かう川は木曾川・天竜川・富士川などであり、日本海に向かう川は信濃川・黒部川・神通川などである。これらの川が山地を流れ、両岸が険しく、流れも急であるため、中央高地は日本でも指折りの水力発電地帯になっている。
北陸地方には、新潟平野・富山平野・金沢平野・福井平野などが開け、海岸に沿って砂丘が発達している。日本海側は、冬の間北西の風が強く、若狭湾の海岸を除いては、海岸線の出入りが少ないので、良い港に恵まれていないが、能登半島が風を避けることもあって、富山湾の沿岸には良い港があり、工場も集まっている。また、若狭湾の海岸線は、出入りの多いリアス式海岸で景色も美しい。
中部地方の太平洋側、中央高地、日本海側の3地域では自然条件も産業の状況も大きな違いがあり、地域差も大きい。太平洋側の東海地方は、平野や台地が連なり、気候は温暖で、四季を通じて生産活動が活発で、工業も発達している。これに対して、日本海側の北陸地方は、平野に恵まれているが、日本一の多雪地帯で、冬の生活や交通は不便である。中央高地は、広い範囲にまたがる山岳地帯で、人口は小盆地に集まり、産業も山地特有の産業しかない。
近代工業は名古屋を中心に中京工業地帯で行われ、中京工業地帯とは、名古屋を中心として愛知・岐阜・三重の3県にまたがる、半径約40キロの範囲を指している。第二次世界大戦前の中京地方は、中心の名古屋をはじめ、一宮・津島の毛織物工業や、岡崎・岐阜・大垣の綿織物工業のような、繊維工業の都市がたくさんあった。また良質の陶土の多い瀬戸、多治見から名古屋・知多半島に及ぶ地域は、陶磁器の生産地であり、日本一の窯業地域であった。第二次世界大戦中から、急に重化学工業の割合も多くなってきた。近年は、名古屋に機械・航空機、刈谷に機械、豊田・鈴鹿に自動車、津に造船、東海市に鉄鋼、四日市に石油化学など、重化学工業が目覚しく発達しており、京浜・阪神とともに、日本の三大総合工業地帯となり、日本第三位の工業生産額を上げている。中京工業地帯が発達したのは、港・鉄道・道路など、便利な交通条件のほかに、中央高地からの豊かな電力や、周辺の農山漁村からの労働力などに恵まれ、また、昔からの工業の伝統があったからである。
愛知県の重化学工業の中心は、名古屋市南部と東海市などの海岸地帯と、内陸では豊田市・刈谷市・岡崎市などにある。名古屋港の周りの南部地区には重化学工業の大工場が集まっており、とくに航空機工業では日本全国の中心になっている。東海市は新日本製鉄名古屋製鉄所を中心とする製鋼・石油・造船・化学などの工場が建ち並び、「鉄の東海市」といわれている。
自動車工業は中京工業地帯の特色の一つになっており、その中心は岡崎平野の豊田市や刈谷市や岡崎市などにある。中でも豊田市は代表的な自動車工業都市であり、名古屋に次いで愛知県第二の工業生産額を上げている。
中京工業地帯の繊維工業は、日本全国で一番盛んなところである。愛知県の綿織物・毛織物の生産量は、ともに日本全国一である。中には、尾西・一宮・津島市などが愛知県の毛織物工業の中心地である。
陶磁器工業は瀬戸・多治見・常滑・碧南・四日市などの都市がその中心であり、和洋飲食器・タイル・玩具などを作っている。瀬戸市の陶磁器工業は盛んで、古い歴史を持っている。市内にたくさんの瀬戸物の工場が建ち並び、日本一の陶都といわれている。
東海工業地域は、中京と京浜の工業地帯の中間に位置し、愛知県の蒲郡・豊橋市あたりから、富士山の麓の沼津・三島あたりにかけての東海道本線の沿線地域を含む。近年の発展は目覚しく、工業生産額では、北九州工業地帯を凌いでいる。第二次世界大戦後は、機械・化学などの大工場が次々に建てられてきた。浜松を中心とした地区では綿織物工業のほか、楽器工業・オートバイ製造も盛んであり、日本一の生産をあげている。
東海地方は、京浜や阪神の大市場に近く、トラック輸送が便利なので、地形・気候や用水をうまく利用した、大都市向けの作物を作る集約的な農業や畜産が盛んである。濃尾平野の西部は、土地が低湿で豊かな米作地となっている。岡崎平野では米・麦のほか、乳牛・鶏、野菜などの多角経営が盛んになり、よい農業地帯になった。豊橋付近から渥美半島に続く台地でも、野菜栽培と温室園芸が盛んに行われるようになった。春から夏には西瓜・メロン瓜・煙草、秋から冬には大根・白菜・キャベツ・花などを作って東京・名古屋方面へ売り出している。静岡県の茶畑の面積は約2万ヘクタールで、製茶工場は静岡市に多く、日本一の茶の産地となっている。愛媛・静岡・和歌山などは蜜柑の産地として有名である。
中央高地は宝蔵水力に恵まれた川が多く、日本の水力発電の中心地域になっている。日本海側では信濃川・神通川・黒部川など、太平洋側では木曾川・天竜川などには大小の発電所が設けられ、その発電量は日本の水力発電量の半分以上を占めている。また、この地域は森林資源に富み、長野・岐阜・静岡の3県は木材の産出高が多い。景色の優れたところも多く、山と高原の観光地としても名高い。山間の盆地では、米作のほか野菜や果物などいろいろな商品作物が栽培され、自然の特色を生かし、工夫を凝らした農業が見られる。また、戦前に発達した製糸業は戦後、精密機械工業に切り替えられた。
北陸地方は、水田率が高く、とくに新潟県は日本第二位の米産県になっている。また、この地域は世界では有数の深雪地帯で、特色ある雪国の生活が見られる。北陸地方は豊かな電力を利用して各種の近代工業が起こってきた。新潟県は油田や天然ガスの産地である。とくに繊維工業と化学工業の発展は著しい。
名古屋市は京浜と阪神を結ぶ交通路に沿って発達した大都市であり、商工業都市として発展している。名古屋港は日本でも指折りの大貿易港であり、貿易額では横浜・神戸に次いで第三位である。名古屋空港から日本各地に定期便が頻繁に通い、東南アジア方面への国際航空路も開かれている。中部地方には富士山を始め、富士箱根伊豆国立公園などがあり、富士山は日本のシンボルと言われる世界で有名である。金沢の兼六園は日本三公園の一つで、北陸トンネルも観光客の目をひいている。