2、ビジネス敬語の注意点
(1) 身内に尊敬語は使わない
「申し訳ございません。田中さんはただ今席を外しています」
→「申し訳ございません。田中はただ今席を外しております」
「当社の社長さんが木村さまによろしくとおっしゃっていました」
→「当社の社長が木村さまによろしくと申しておりました」
日本語では顧客や取引先など「外」の人との会話では、自分の会社の人は同僚でも社長でも、全て「内」ですから、「内」の人に尊敬語は使いません。特に社外の人との会話では、社長でも呼び捨てにします。韓国のように目上に対する絶対敬語の言語圏の方には抵抗があるかもしれませんが、「社長=自分の親父」と考えて、顧客や取引先の人との会話では謙譲表現を使ってください。なお、下の例の「社長」は代名詞として使われていて、もし以下のような会話であれば、当然呼び捨てになります。
取引先:田中社長はいらっしゃいますか。
秘書 :申し訳ございません。田中はただ今外出しております。
(2) 二重敬語は避ける
「社長は何をお召し上がりになられますか」
→「社長は何お召し上がりになりますか」
「社長は何とおっしゃられましたか」
→「社長は何とおっしゃいましたか」
「何をお召し上がりになられますか」のように、敬語動詞である「召し上がる」に更に「お~なる」をつけた「お召し上がりになる」、それを更に敬語「~られる」をつけて、「お召し上がりになられる」という言い方がないわけではありません。しかし、くどい感じがして、いい印象を相手に与えません。特に「敬語動詞+られる」は不自然な日本語になることが多いので、避けてください。ビジネス会話は合理的でなければなりませんし、無駄な言い回しは不要ですから、「社長は何とおっしゃいましたか」「何を召し上がりますか」と言えば十分です。
(3) 敬語体の不統一は不自然
「社長、何時ごろ、お迎えにいきましょうか」
→「社長、何時ごろ、お迎えにまいりましょうか」
「社長はお目にかかれないと言っています」
→「社長はお目にかかれないと申しております」
間違ってはいないのですが、どこか不自然です。「お迎え」と言ったのであれば、自分の行為ですから、「行く」の謙譲語「まいる」を使って、「社長、何時ごろ、お迎えにまいりましょうか」と言えばよかったのです。同様の理由で「お目にかかれない」と謙譲語を使ったのですから、「言っています」を全て謙譲表現に変えて、「社長はお目にかかれないと申しております」と言わなければバランスがとれません。話し言葉にも文体の統一があると言うことをお忘れなく。
(4) 上司への伝言で現れやすい間違い
「課長、社長が呼んでいます」
→「課長、社長がお呼びです」
「社長、課長が至急お目にかかりたいとおっしゃっていました」
→「社長、課長が至急お目にかかりたいと申しておりました」
「課長、A社の担当者がよろしくと言っていました」
→「課長、A社の担当者がよろしくとおっしゃっていました」
上の二つは社内での伝言ですが、身分・地位の上下関係をはっきりさせなければなりません。「課長、社長が呼んでいます」は社長への敬意が全くない言い方で、ここは「社長がお呼びです」と敬語を使わなければなりません。
次の例は課長も社長もどちらも上司ですから、社長への課長の伝言に「おっしゃっていました」と敬語を使ったのですが、これは誤りです。課長からの伝言を課長より地位が上の人に伝えるときは、謙譲語を使って「申しておりました」と言うのが正しい日本語の敬語表現になります。
一番下の例は他社の担当者の伝言を上司に伝えるケースですが、仮にその担当者が平社員でも、取引先の人には敬語をつけるのが日本語で、ここは「言っていました」を「おっしゃっていました」と言わなければなりません。
5) 上司との日常会話で現れやすい間違い
「課長、ちょっと来てください」
→「課長、ちょっと来ていただけませんか」
「今夜みんなで飲みに行くんですが、課長も行きたいですか」
→「今夜みんなで飲みに行くんですが、課長もご一緒にいかがですか」
「課長、今夜のパーティーには参加するつもりですか」
→「課長、今夜のパーティーには参加なさいますか」
これらは上司との会話でふと使ってしまう誤用例です。先ず、「~てください」はお店で何かを注文するときとか、目下に何かを依頼するときに使う表現で、実質的には依頼ではなく指示に近い意味になります。ですから、「~てください」を上司に使うととても無礼な言い方になります。上司や目上には「~てくださいませんか」か「~ていただけませんか」と丁寧な依頼表現を使わなければなりません。
また、「~たいですか」も「~つもりですか」も同僚や後輩に使うのであれば許されますが、日本人は目上の人の希望や意向を尋ねるとき、このような直接的な尋ね方は決してしません。目下の者から「~たいですか」「~つもりですか」と聞かれたとしたら、自分の心の中に土足で踏み込まれたようで、不愉快になるのが日本人の感覚です。ですから、上司を誘いたいのであれば、「~んですが、ご一緒にいかがですか」、意向を尋ねたいのであれば、「つもり」と言う表現を避けて、「~なさいますか」とか「~なさるご予定ですか」としなければなりません。母語をそのまま翻訳して使うと、日本ではとても失礼な言い方になることが多いので、注意してください。