『誰にも言えない悩み DV、妊娠、禁断愛』
漁港
防波堤の先端に立つ藍田美知留(長澤まさみ)。
妊娠中の彼女は、優しく自分のお腹に触れ、そして微笑む。
家に帰った美知留は、ノートにはさんでおいた写真を手に取る。
どの写真にも瑠可がいた。
「瑠可・・・
元気ですか?
私は一人で、なんとかやっています。
ずっと一人だったから、寂しくはありません。
あなたの目の前から私が姿を消すのは、
これで二度目ですね。
一度は、高校のとき、母に連れられて。
そして、二度目は今度。
もう会えないんだね。瑠可。
でもしょうがない。
あなたを裏切った、それが報いだと思うから。
あの頃、私は、あなたのことを何も知らなかった。
あなたの夢。
あなたの悩み。
あなたが心の中に秘めていた、思い。」
マグカップをテーブルに置くと、美知留は手紙を書き始める。
ペンを置き、窓の外に広がる青空を見つめる。
「空が青いよ。
瑠可・・・
そっちの空はどう?」
書きかけの手紙をぐしゃっと丸め、ゴミ箱に捨てる。
「人が人を知るって、本当に難しい。
今も思うの。
もしも私に、人の心を知る能力があったら、
せめてそのことにもっと一生懸命だったら、
あの恐ろしい出来事を、
あの死を、防ぐことが出来たんだろうかって。
でもね、瑠可。
あなた達は確かに私の側にいた。
例えもう二度と会えないとしても、
私は、今もあなた達に支えられてる。」
ここで写真のアップ。
シェアハウスの前に並ぶ、
友彦、エリ、美知留、瑠可、タケル。
そして、オープニング。
主題歌の宇多田さんの歌声と影像が合っています。
吉祥寺
藍田美知留は、都内の美容室でアシスタントを務める22歳。
彼女の仕事が終わるのを、約束の時間から2時間半過ぎたのに、
恋人の及川宗佑(錦戸亮)は待っていてくれた。
まだ仕事が終わらない美知留に笑顔で手を振り、
「向こうで待ってる。」と合図を送る。
カフェに駆けつける美知留。
宗佑が笑顔で手を振る。
「ごめんね、こんな時間まで待たせて。」
「いいよ。店なかなか抜けられなかったんだろう?」
「うん。」
「でもよく働くよな、こんな時間まで。」
「しょうがないよ。アシスタントにしわ寄せくるの当たり前だし。
それに私、この仕事結構好きかも。」
「そう?」
「仕上げが終わったあと、お客さんが鏡の中で嬉しそうな顔するの、
見るの好きなの。
カッティングとか、任された時は特にね!」
「先輩に、いじめられたりとか、ないの?
よく聞くから、そういう話。」
「なくはないけど、大丈夫。」
「そっか!
あ、そうだ。誕生日プレゼント。」
「ありがとう!
何かなー。」
包みを開ける美知留。マグカップだ。
「可愛い!ありがとう!」
「うちに、お揃いのがもう1個あるんだ。
どうせなら一緒に使おうと思って。」
「そうだね。宗佑んち遊びに行った時、 一緒に使おう!」
カードには
『To 美知留
誕生日おめでとう!
これからも末永くよろしくね。
From 宗佑』
と書いてあった。
「・・・美知留?」
「うん?」
「一緒に、暮らさない?」
「・・・」
「ダメかな。
お母さん反対するかな。」
「・・・聞いてみる。
でも私は・・宗佑と一緒に暮らせたら・・
嬉しい!」
手を重ねて微笑みあう二人。
両親の離婚を経験した美知留は、現在、母親の千夏(倍賞美津子)と
暮らしていた。
だが、千夏が男を連れ込んだりすることもあって、家を出たいと
願っていた。
家に帰ると母親がテーブルに突っ伏して眠っている。
「あーあ。また飲んじゃったんだ・・。」
母に毛布を掛ける美知留。
トイレから男が出て来た。
「なんだ。娘いたのか。
一杯どうだ?」
「え・・私は、いいです。」
「いいじゃないかちょっとぐらい。
いい胸だな、母ちゃんに似て。」
「やめて下さい。」
母親が目を覚ます。
「なんだ、いたの。」
「デカい娘がいるんだな。いくつだよ。」
「この子ね、美知留って言うの。
いくつだっけ?」
「22。」と美知留。
「21じゃなかった?」
「22だよ。昨日で。」
「そっか。昨日誕生日か。」
「・・・」
「そうだったねー。そうっか!」笑い出す母親。
「祝ってやんなきゃな、誕生日なら。」と男。
「いいよ、そんなことしなくて。
ほら、自分の部屋行ってて。」
母親に追いやられ、自分の部屋に篭る美知留・・。
朝
食器を洗う美知留。
「あれ?ケンちゃんは?」母親が目を覚ます。
「あの人なら帰ったみたいよ。」
「冷たいねー。起きるの待っててくれたらいいのに。
あんたが朝早くからガチャガチャするから、
い辛くなったんじゃないの?」
「・・・お母さん。相談したいことがあるの。」
「何。」
「私・・・ここを出て、一人で暮らしちゃダメかな。」
「一人で?
男とじゃないの?」
「・・・」
「そうなんだ。」
「及川宗佑さんっていうの。今度お母さんにも会わせるね。
区役所の、児童福祉課ってとこに務めてて、
すごくちゃんとした人だから。
世田谷の松原にマンションがあって。」
「マンションねー。豪華な話だね。」
「ここの家賃は、今までどおり入れるから、心配しないで。」
「・・・」
「いい?」
「いいよ。家賃入れてくれるなら。」
「ありがとう!」
ある家庭を訪問する宗佑。
「世田谷区役所の及川です。
7歳のお子さんがいるんですよね。
今どちらに?」
「母に預けてますけど。近くなんで。」
「そうですか。
お子さんのことで伺いたいんで、ちょっと上がらせてもらっても
いいでしょうか。」
「すみません。私、これから買物に行くんで。」
母親はそう言い、出ていってしまう。
宗佑はその様子を見ていた子供に気づく。
公園
さっきの子供が砂場で一人で遊んでいる。
「一緒に遊んでもいいかな?」
「いいよ。」
「シャベル貸してくれる?」
子供がシャベルを渡そうとする。その腕にはあざがあった。
そのあざを見つめる宗佑。
「・・・お母さんのこと、ここで待ってような。」
「うん!」
宗佑の電話が鳴る。
「宗佑?一緒に住めるよ!」
「そっか!」
「お母さんがいいって!
今度の土曜日に、荷物持っていくから。」
「わかった。待ってる。」
「大きめのお鍋とか、食器とか買っていくね!」
美知留は、宗佑との新しい生活に必要なものを買うために
雑貨店を訪れた。
スリッパ、お茶碗、そしてお洒落なランプなど、
楽しそうに選んでいく。
偶然、同じ店にきていた岸本瑠可(上野樹里)は、買い物を終えて
店を出て行こうとしていた美知留の姿に気づく。
瑠可は、買い物に来ていたヘアメイクアーティストの卵、
水島タケル(瑛太)にぶつかって買ったばかりの
マグカップを落としたことも気に留めず、
バスに乗って走り去る美知留の後を自転車で追いかけた。
吉祥寺駅でバスを降りた美知留に追いついた瑠可は、
彼女に声をかけた。
「美知留!」
「・・・瑠可!?」
「美知留!」
「瑠可ー!!」
美知留は、瑠可との4年ぶりの再会を喜び、思わず抱きつく。
井の頭公園
美知留と瑠可は、高校時代の思い出が残る公園で、
お互いの近況を報告し合う。
「やっぱ、東京にもどってきてたんだね。」
「うん。落ち着いたら瑠可にも連絡しようと思ってたんだけど、
余裕なくて。
お母さんにも、誰にも言うなって言われてたし。」
「どこで何してたの?」
「銚子に、遠い親戚がいて、そこ頼ってお母さんは夜の仕事をして、
私はバイトしながら、美容学校受けて。」
「じゃあ今は?」
「美容師。」
「美容師になたんだ!
そっかー。似合ってるよ、美知留に。」
「瑠可は?今何してるの?」
「モトクロス。」
「モトクロス?すごいじゃん!
あれでしょ?バイクの選手ってことだよね。」
「選手としてはまだまだだよ。
バイク屋でバイトもしているし。」
「ふーーん!」
「懐かしいね。」
「うん。」
「この辺、いつも来てたよね、二人で。
瑠可が、自転車の後ろ乗っけてくれて。」
「よく追っかけられたよなー、守衛さんに。
こら、そこの違反自転車って。」
笑い合う二人。
「私が、家のことで悩んでた時に、ここで朝まで話聞いてくれたよね。」
「だってあんなに泣いてたら、ほっとけないじゃん。」
「変わってないね、瑠可。」
「うん?」
「他の子が、クラスの男子の話とか、美味しいケーキ屋さんの話で
盛り上がってる時、瑠可はいつもみんなから離れて、
一人で超然としてたでしょ?」
「何それー。浮いてるってことじゃない。」
「わが道を行くって感じだったよ。
私は、流されるほうだから。」
「別に、人に合わせるのが面倒なだけだよ。」
「そう?」
「とかいいつつ、今人と住んでるんだけどね。
シェアハウスって知ってる?」
「ああ、あれ!何人かで住む?」
「共同住宅。
食堂と、リビングと、風呂が共有で、
あと、それぞれ個室持ってて。」
「へー、面白そうだね!」
「友達4人とシェアしてたんだけど、この春にどっと出てっちゃって。
今スッチーの子が一人残っているだけなんだ。
良かったら美知留も来ない?」
「ああ・・」
「家賃安いよ。月4万円。」
「・・・私ね、今度、人と一緒に暮らすんだ。」
「人って・・男?」
「うん。」
「・・・恋人、だよね、もちろん。」
「うん。」照れ笑いする美知留。
「そっかー。恋人がいるんだ、美知留には。」
「何よ。」
「いや、いいことだと思ってさ。
美知留はちょっと奥手だから、心配してたんだ。」
「そういう自分はどうなの?」
「え・・
今は・・夢に向かってまっしぐらだから、
そんなこと考えてる余裕ない。」
「瑠可らしいなー!」楽しそうに笑う美知留。
瑠可はそんな美知留の横顔を見つめ・・・。
「また会える?」
「もちろん!携帯の番号と、メアド教えるね!」
「じゃあ、これからバイトだから。」と瑠可。
「うん。」
「じゃ!」
「うん。それじゃあ又ね。」
自転車を漕ぎ出す瑠可。
美知留も反対方向に歩き出す。
「瑠可・・・
私は全然知らなかった。
その時あなたが、振り返って、私を見てたこと。
あなたの視線に、私は気づかなかった。」
瑠可は自転車を停めて振り返ると、美知留の背中を見つめ・・・。
タケルの家
自宅の電話が鳴り、受話器に手を伸ばすタケル。
『シラハタユウコ』の表示に、タケルは電話を無視して仕事に向かう。
撮影スタジオ
モデルにメイクしていくタケル。
「うん、OK!いいですよ。終わりです。」
モデルがタケルの頬に突然キスをする。
「・・・やめて下さいよ。
変な・・噂立てられちゃいますよ。」
「いいじゃん。変な噂大歓迎!
ね、今度一度飲みに行かない?
いつだったらいい?」
「夜はバイト入ってるからなー。」
タケルのそっけない返事にモデルは黙ってその場を去る。
タケルは、本業であるヘアメイクの仕事を終えると、
自転車でアルバイト先に向かった。
「運命の出会いは、結構何気なく訪れる。
瑠可・・・
君との場合はそうだった。」
信号待ちをしているタケルに瑠可が並ぶ。
「・・・あ!!」
雑貨屋で自分にぶつかってきた子だと気づくタケル。
「あ!!」
「・・見んな、バーカ!」
信号が青に変わり、瑠可は自転車を走らせる。
「あ!待ってこれ!落し物!!これ!」
ちょっと待って!!」
必死に瑠可を追うタケルだったが、瑠可はどんどん引き離していく。
モトクロスの練習場
練習を終えた瑠可に先輩が声をかける。
「いいよお前!
男でも練習でなかなかあそこまで飛べない。
度胸ある!」
「ありがとうございます!」
「よし、今度飲みに行くか。奢ってやるから。」
「はい!」
「そん時はスカート履いてこいよ。
いいケツしてんだから。」
先輩が瑠可のお尻を叩く。
「・・・」
これに怒った瑠可は、先輩のお尻に蹴りを入れ、ニコッ!
女子更衣室の前のベンチに座る瑠可。
みんなが出てくるのを待ち、更衣室の中へ。
ロッカーの鏡に映った自分の顔を睨みつけ・・。
空港
契約制客室乗務員をしている滝沢エリ(水川あさみ)。
同僚に挨拶をするが無視されてしまう。
別の日、瑠可は、エリとともにとあるバーを訪れる。
そこは、タケルがバーテンダーをしている店だった。
「あ!」タケルに驚く瑠可。
「あ!!」とタケル。
「何?知り合い?」とエリ。
「こいつ知ってるよ!馬力ゼロのヘタレ男!
走るの遅すぎてナンパも出来ないんだよね!」
「あのね、ナンパじゃないですから!
忘れてるだろうけど、その前にいっぺんすれ違ってるんだ。
つーか、お宅が荷物引っ掛けて、その時に自分のカップ、
落としたの覚えてません?」
タケルが箱を差し出す。
箱を開け、マグカップを手に取る瑠可。
割れたところはちゃんと修復してあった。
「・・あ!」
「思い出した?」
「あー、思い出した。ぼんやり。」
「・・・」
「しょうがないよ。あの時はちょっと取り込み中で。
それにあんたの顔薄いし。」
「シーッ!」とエリ。
「言うなぁ。
でもまあとにかく、それ持って帰って下さいよ。」
「あげる。これヒビ入っちゃってるんでしょ?
もういらない。」
箱を突き返す瑠可。
「まあまあ。ごめんね、こいつこういうヤツで。
それに今日荒れてんの。
先輩にセクハラされたとかでね!」
「その話はもういいから。」
「あんたね、そのくらい我慢しなさい。
女の戦いの方がずーーっとシビアだよ。
私なんて毎日飛行機乗って地獄見てっからね、言っとくけど!」
「そりゃーそうかもだけどさ。」
「ま・・でも瑠可の気持ちはわかる。
エロい先輩とかはね、厄介だよね。」
「ていうか・・男とか女とか関係なく、
人としてちゃんと尊重して、距離守って付き合ってほしいんだよね。
そういうヤツとなら一生付き合っていけるのに。」
「・・・わかるなぁ。」とタケル。
「へー、わかるんだ、タケル。」とエリ。
「いや・・俺も、そういう友達、欲しいから。」
「・・・」
「2人、気が合うじゃん!付き合ってみちゃったら!?」
エリが2人を冷やかす。
「そういうんじゃなくってさ。」と瑠可。
エリ、タケル、瑠可の3ショットに『のだめ』を思い出します!
箱からマグカップを取り出すシーンに、
シチュエーションは違いますが、宗佑と美知留のシーンが重なります。
シェアハウス
「ただいまー。
・・・うちらだけなのに、つい言っちゃうね。習慣で。」とエリ。
「うん。言っちゃう。」
「あ!そうだ。
タケルのことだけどさ、あんま期待しない方がいいよ。」
「期待って?」
「あいつ綺麗な顔してっけど、残念ながら、ゲイかも!
私が勝手に疑ってるだけなんだけどね。
彼女いたところ見たことないし、
メイクアップアーティストっていう仕事がね!
なんか怪しくない?」
「てか、どうでもいい。」
「そっか。どうでもいいか。」
「うん。」
「じゃ、明日ね。オヤ!」
「オヤ!」
瑠可の部屋
引き出しから写真立てを取り出す瑠可。
瑠可と美知留の2ショット写真。
「美知留・・・
あなたは言ったよね。
瑠可は一人、超然としてわが道を行く人だと。
違うんだよ。
私はただ・・人が怖いだけなんだ。」
携帯を取り出し、アドレス帳を開く瑠可。
美知留にメールを打っていく。
『TELしていいかな。
私ね、』
「今だって・・自分の心の中にある、一番大事なことは、
人に話せていない。
誰にも。
美知留、あなたにさえも。
美知留・・・
きっとあなたには想像できないね。
2年ぶりにあなたの姿を見かけて、
私がどんなに驚いたか。」
雑貨屋を飛び出し、自転車で美知留の乗ったバスを追いかけた時。
駅でバスに追いついた瑠可は、人ごみの中から必死に美知留の姿を探す。
「この4年間、私がどんなにあなたを思い、
どんなに会いたいと願ってきたか。」
美知留の姿を見つけた瑠可。
戸惑いの表情を浮かべ・・
「そして、それと同じくらい・・・
再会を恐れてきたか・・。」
覚悟を決め、自転車を押して美知留にゆっくり近づいていく。
「美知留。」
落とし物を拾い集めていた美知留が振り返る。
複雑な表情でメール作成画面を見つめる瑠可。
『TELしていいかな。
私ね、』
その続きを打てずに、瑠可は携帯を閉じる。
美容院
お客さんの髪をブローする美知留。
「ちょっとねー、この髪型。」と客。
「どうなさいました?」
「地味じゃないかな。」
「あー、でしたら・・
こう、ボリュームを出して、」
ワックスで客の髪型を整えてみる。
「よくお似合いになります!」
「本当!?
じゃあこの次からあなたにお願いしてみようっかな!」
その様子に気づいた美容師・平塚令奈(西原亜希)、
「変わりましょう。」と慌てて戻ってきた。
「はい。じゃあ失礼します。」
令奈は客に挨拶する美知留の足を思い切り踏みつける。
タオルを洗っている美知留の元に令奈がやって来た。
蛇口を熱湯に変える令奈。
「熱いっ!」
「私の客、取ったら承知しないからね。」
「・・・」
みんなが帰ったあとも最後まで掃除をする美知留。
携帯にメールが届く。瑠可からだ。
『おつかれ
まだ仕事中?
このまえは会えて
嬉しかった。
瑠可』
「瑠可・・。」
土曜日
美知留は、宗佑のマンションに引っ越していく。
美知留が到着するのを見計らったように、宗佑が出迎えてくれた。
「持ってあげる。」大荷物を受け取る宗佑。
「ありがとう。」
「あ、そうだ。これ、渡しておく。」
宗佑は合鍵を美知留に渡す。
「・・・うん!」幸せそうに微笑む美知留。
「お邪魔します。
・・・お邪魔しますはおかしいね。ずっと一緒に住むのに。」
「うん。」
「これからは・・ただいま、だね。」
「お帰り。」
「ただいま!」
宗佑は色違いのマグカップにコーヒーを入れると、
ソファーに座る美知留の隣に座る。
「はい、お待たせ。」
「ありがとう。」
「乾杯!」「乾杯!」
美知留の荒れた手に気づく宗佑。
「荒れてるでしょ。」
「痛くない?」
「うん、平気。」
部屋を見渡す美知留。
「今日からここが、私の家なんだよね。」
「うん。」
「ここにいれば、大丈夫。
外でどんなに辛いことや、悲しいことがあっても、
ここに帰ってくれば、宗佑がいる。」
「僕は、絶対に美知留の側を離れない。
何があっても。」
微笑みあう二人。そして二人はキスをした。
色違いのランチョンマット、お箸、茶碗、そしてマグカップ。
翌日
美知留が目を覚ますと、宗佑が美知留の携帯電話を開いてみており…。
動揺を抑え、美知留は宗佑に声をかける。
「・・・何見てるの?
何か変なメール来てた?
お母さんかな。」
「これ、誰?」
宗佑は瑠可からのメールを見ていた。
「アハハ。あー!それは、友達だよ。高校のときの。
この間、すっごい久し振りに偶然町で会って。」
「男?」
「・・・」
「男だろ。」
「・・・違うよ・・
女の子だよ。
瑠可って、ちょっと変わった名前だよね。
その子、見た目も、ちょっと男の子っぽくて。
でも、女の子だよ、本当に・・。」
「証拠は?証拠はあんのか?」
「・・・」
宗佑の冷たい目に凍りつく美知留。
「電話・・電話掛けるね。
声聞けばわかるから。」
宗佑が美知留に携帯を渡す。
急いで瑠可に電話をする美知留。
だが電話は繋がらず。
「留守電になっちゃった・・。」
「隠れて男と会ってたんだろ!」
「そんな・・本当に瑠可は、」
足でテーブルを蹴り飛ばす宗佑。
「言えば言うほど怪しいんだよっ!
男と会ってたんだろ!そうなんだろ!!」
乱暴に美知留を揺する宗佑。
「違うよ・・絶対違うよ!」
「・・・」
「・・わかったから・・
証拠見せるから・・。
そうだ。アルバム!
うちに帰って高校の卒業アルバム持ってくるから。」
「本当に持ってくるんだな。」
「持ってくる・・」
やっと宗佑が美知留から離れる。
母親の住むアパートで、必死にアルバムを探す美知留。
「もう・・どこにしまったんだろう・・」
焦りながら、必死に探す。
美知留の携帯が鳴る。
台所に戻り、カバンの中から携帯を探している間に、
電話は切れてしまう。
宗佑からだった。
携帯をカバンに戻し、再びアルバムを探そうとすると、
また電話が鳴る。
「はい・・」
「今何してた!」
「何って・・アルバム探してたんだよ。」
「何ですぐに電話に出ないんだ!」
「携帯、キッチンにあって・・」
「男と会ってるんだろう!」
「そんなわけないでしょ・・。
宗佑に言われたから、アルバム探してただけだよ。
でもなかなか見付からなくて。
ほら、うち、お父さんが借金作って、夜逃げするみたいに
出てきたじゃない。
多分あると思うんだよ、でも・・」
「帰って来い。すぐに帰って来い!」
バスを降りると、雨が降ってきた。
美知留は宗佑のマンションへと走り出す。
鍵を開けようとすると、宗佑がドアを開ける。
「宗佑・・」
「アルバムは?」
「・・ないよ。だって宗佑が、」
宗佑は乱暴に美知留の腕を掴み、部屋に引き込む。
ここでCM。
CM開け、同じシーンを、今度は宗佑がドアを開ける側から撮っていることで、
美知留の怯えた表情を真正面から見ることが出来ます。
部屋の奥に美知留を突き飛ばす宗佑。
美知留が買ってきた綺麗な照明が粉々に割れてしまう。
宗佑は唇を噛みしめ、美知留に近づいていく。
「何で言う通りにしないんだ・・」
冷たい目でそう言い放ち、思い切り美知留の頬を平手打ち。
1度、2度、3度。
美知留がその場に倒れこむと、宗佑は今度は美知留の腹を蹴り始める。
苦しそうに咳き込む美知留。
だが宗佑は蹴るのをやめようとしない。
「やめて・・やめて・・。」
苦しむ美知留をしばし見つめると、宗佑は急に冷静になり、
美知留を抱き起こす。
「・・・ごめん。美知留・・。」
泣きながら美知留をぎゅっと抱きしめる宗佑。
「苦しい・・
苦しいよ宗佑・・。」
宗佑は美知留を放し、彼女を見つめ、そしてキスしようとする。
思わず顔をそむけてしまう美知留。
「・・・ごめん。
私・・・
私もう1度・・
アルバム探してくるね
・・ごめんね。」
美知留はそう言い、宗佑の部屋を出ていく。
雨の中、泣きながら町を歩く美知留。
母親の住むアパートに行ってみる。
台所の窓から、母親が料理している姿が見える。
美知留はやっと微笑み、家に駆け寄ろうとするが、次の瞬間立ち止まる。
男が母親を抱きしめ、母親も嬉しそうに男を抱きしめるのを
見てしまった。
ここは自分の居場所じゃない。
美知留はそう思い、家に背を向け歩き出す。
井の頭公園
ステージ前のベンチに腰掛け、美知留は瑠可に電話をしてみるが、
電話は留守電につながり・・。
その時瑠可はコンビニで買物をしていた。
お弁当を温めている間、店の外に出て携帯をチェックする。
美知留からのメッセージが入っていた。
「また・・・電話します。」
美知留の悲しそうな声に・・・瑠可が走り出す!
瑠可が迷わず向かった場所は・・井の頭公園のステージ前。
「瑠可・・。
何で?」
「もしかしたら、ここにいるかなーと思って。
でもまさかいるとは思わなかった。」
「昔もここで、雨宿りしたことあったよね。
昔は売店があって、パラソルがあって、
よくアイス買って食べたよね。」
「・・うち、すぐ近くだけど、来る?」
シェアハウス
「ナマステー!」
エリが元気に二人を迎えてくれた。
「ただいまーって、何この衣装とセッティング!」と瑠可。
「せっかくのお客さん喜ばせたいじゃん!」
「あ!びしょ濡れだね。エリ、着替えとかある?」とタケル。
「うん!あるある!」
「はい。」タケルが二人にタオルを渡す。
「ありがと!」
「何飲む!?
今夜はここにバーテンがいるから、お酒は選り取りみどりだからね!
あ!マティーニとかいっちゃう!?」ハイテンションなエリ。
「無理に勧めんなよ!」と瑠可。
「やらしい中年みたいに言うなよー。」とエリ。
「あのー・・みんな、ここに住んでる人、なの?」と美知留。
「え?」とエリ。
「シェアハウスっていうから。」
「あー!ごめんごめん。
自己紹介遅れました。
私は滝川エリ!」
「エリーって呼んでやって。」と瑠可。
「で、こおいつは飛び入りでタケル。」
「はじめまして!」
「はじめまして。」
「今夜泊まっていくんでしょ?」エリがタケルに聞く。
「うーん・・」
「エリーは酔うと強引だから、覚悟しといた方がいいよ。」と瑠可。
「しといた方がいいよー!」とエリ。
「あー、私も、今夜ここに泊まってもいいかな・・。」と美知留。
「うん・・いいよ全然。部屋なら開いているし。」と瑠可。
「うん!」とエリ。
「実は・・彼と、ちょっとケンカしちゃって。」
「・・・」瑠可の表情が曇る。
「なーんか可愛いね、美知留ちゃん。
食べたくなっちゃうなー!」とエリ。
「だからやめろって、エリ!そういうこと言うのは。」
「なーんで。可愛いって褒め言葉でしょ!」
「本当に人食いそうなんだもん。」と瑠可。
タケルが美知留のグラスに酒を注ぐ。
「乾杯しよう!
乾杯ー!」「乾杯ー!」
美知留を見つめる瑠可。美知留が微笑み返す。
「その晩、瑠可も、初めてあった友達も、
なんでかみんながすごく優しくて、
私はお菓子の家に来た、迷子みたいな、
幸せな気持ちになった。
・・でもやっぱり、夜中に気が緩むと、
私は宗佑のことを思い出していた。
まるで、落としたまま二度と見付からない、
大事な宝物のことを思い出すみたいに。」
合鍵を手に取り、悲しそうな表情を浮かべる美知留。
視線を感じたのかぱっと振り向くと、
瑠可が心配そうに美知留を見つめていた。
美知留が微笑むと、瑠可も微笑を浮かべ・・。
「ごめんね、瑠可。
あの時、世界で一番自分が不幸だと思っていた私は、
何て子供だったんだろう。」
朝
タケルを見送る瑠可。
「あー、俺・・ここに住んでいいかな。」
「ここに?どうして?」
「なんか・・馴染めそうな気がする。」
「エリーに聞いて。私わかんない。」
タケルは笑顔で頷くと、自転車で帰っていく。
部屋に戻った瑠可は、ソファーでいびきをかいて爆睡するエリに
タオルケットを掛ける。
美知留もクッションを抱えて別のソファーで眠っている。
タオルケットをそっと掛け、美知留の寝顔を見つめる瑠可。
眠っている美知留の瞳から涙があふれ出る。
「・・・」
瑠可は美知留にそっと顔を近づけ、そしてキスをした。