『引き裂かれた絆』
美知留(長澤まさみ)は、瑠可(上野樹里)のことで宗佑(錦戸亮)と
口論になり、激しい暴力を受ける。
宗佑から瑠可と会うことを禁じられた美知留が、それに反発したことが
原因だった。
美知留は、瑠可やタケル(瑛太)たちが暮らしているシェアハウスに
向かい、助けを求めた。
美知留の怪我の手当てのあと、傷を目立たなくするようメイクするタケル。
「これで、だいぶ目立たなくなったと思うけど。」とタケル。
「ありがとう...。」と美知留。
「...美知留。正直に言ってくれる?
こういうこと...これで何度目?」瑠可が聞く。
「こんなに酷くは...。
でも...何度か...。」
「別れた方がいい。
優しい人だとか、私を愛してくれているとか、
美知留言ってたよね。
でも違うよ。これは愛じゃない。
暴力で...人を思い通りにしようとするのは...
愛じゃないよ。」と瑠可。
その言葉に涙を浮かべる美知留。
タケルがティッッシュを渡す。
「思うんだけどさー、DVやる男って大体性格がしつこいんだよね。
絶対ストーカーみたいになって、
美知留ちゃんのこと追い回すんじゃない?」とエリ(水川あさみ)。
「そうだうん!
さすが、数こなしている人は言うことが違う、」と友彦(山崎樹範)。
「とにかく今は、美知留にあの男を近づけるのは危険。」と瑠可。
「そうだね。距離は置いた方がいいかもしれない。」とタケル。
「この家がそいつに辿られる可能性って、どれ位あるの?」とエリ。
「美容室は変えた方がいいね。
それと...携帯は、絶対に出るなよ。」と瑠可。
「わかった...。
でも美容室は...」
「タケル、なんか、あんたのツテは無いの?」と瑠可。
「探してみるよ。」
バイト先から父親の修治(平田満)に電話する瑠可。
「ストーカー!?」
修治の言葉に驚き、夫が持つ受話器に耳を寄せる妻?陽子(朝加真由美)。
「お前、ストーカーに合ってるのか?」
「違う違う。私じゃないよ。私の、友達。
悪い男から友達匿ってるの。
だから、男から電話かかってきて、私の住所聞かれても、
絶対教えないで欲しいんだ。」
「ああ...。」
「あ、そいつ、区役所の福祉課とか名乗るかもしれないけど、
信用しないで。」
「わかったよ。本当に、お前じゃないんだな。」
「しつこいなー。違うよ。」
シェアハウス
美知留にコーヒーを入れるタケル。
「あ、今日は瑠可のカップでいい?」
「うん、ありがとう。」
「はーい。」
「タケル君、仕事は?」
「うん?ああ...ま、今日は、大丈夫だよ。」
「そう。」
インターホンが鳴る。
「...はーい。」緊張しながら玄関に向かうタケル。
その様子を心配そうに見つめる美知留。
「ごめん!開けて!俺俺!」友彦だった。
「あ!オグさん?」
「ごめんね、タケル君!」
「オグさん!」
「オグリンでいいってー。」
「忘れ物!財布と鍵!」
「あ、これか!」
ソファーにあった財布、鍵、そして新聞を渡すタケル。
「気が利くー!ってこれ、昨日の新聞じゃん!
あ、美知留ちゃん、じゃーね!
行ってきマウス!」
美知留が微笑む。
「行ってらっしゃい!」友彦を見送るタケル。
インターホンの音に、美知留もタケルも、それが
宗佑では...と思い、緊張が走りました。
美知留はそれが宗佑でなくて、少しがっかりしたような...
そんな風にも見えました。
美容室
「藍田は本日はお休みを頂いております。」と令奈(西原亜希)。
「そうですか...。」と答えながら店内を見渡す宗佑。
「急に休まれると、困っちゃうんですよね、こっちも。」
「じゃあ、もし出てきたら、こちらに連絡していただけますか?」
宗佑が名刺を渡す。
「はい、わかりました。」
「お願いします。」宗佑が帰っていく。
令奈はその名刺をすぐにゴミ箱に捨てた。
モトクロス練習場
練習を終えた瑠可に駆け寄る監督?林田(田中哲司)。
「だいぶいい感じだ!戻ってきたな!
トレーニング頑張った甲斐あったな!
重心が、安定してきた。」
「はい!」
「よーし!今日は飲みに行くか!奢ってやるよ。」
「...今日は、ちょっと。」
「何だよー。」
「家で人が、待ってるんで。」
「男か?ふーん、いいね、お盛んで。
わかったわかった!じゃあ又今度な!」瑠可の肩を叩き立ち去る林田。
「...林田さん!」
「うん?」
「すぐに、男だとか女だとか、そういうこと言うのやめてくれます?」
「は?」
「私はレーサーです。
女とかじゃなくて、レーサーとして見て下さい。」
「...それは無理だな。
梨をリンゴだと思えと言うのと一緒だよ。
お前は女だもん。」
「...」
「お前は優秀な、女のレーサーだ!」
「...」複雑な表情を浮かべる瑠可...。
シェアハウス
冷蔵庫の横の小物入れにはペンとシールが入れてあり、
『自分の物には色を塗って名前を書こう!』と書いてある。
「瑠可ー、白滝切るよー。」とタケル。
「うん。
あ、エリ、豆腐使っていい?」
「えーっ!120円!」
「いいじゃんー。金ないんだって。」
「えーっ。」
「お餅入れようよ、俺買ってきたやつ。」と友彦。
「スキヤキに餅入れる?普通!」とエリ。
「え?スキヤキに餅ってマストでしょう!?」と友彦。
美知留は食器を並べながら、そんなみんなのやり取りに微笑む。
その時、美知留の携帯が鳴る。
部屋の外に出て携帯をチェックする美知留。
着信履歴には、宗佑から1分おきの履歴が残っていた。
伝言メッセージを再生してみると、
『美知留...戻ってきてほしい。
一緒にご飯食べよう。
二度と君に手をあげないって約束するから。』
携帯を見つめる美知留から、瑠可が携帯を取り上げる。
「聞くなよ、こんな伝言。」
「...」
「戻ってきてくれ。
暴力は二度と振るいません。
だろ?」
「...そうだけど。」
「信じちゃダメだよ。
戻ったら...また同じことの繰り返しになる。
傷つくのは自分だよ。」
「...」
「さ、食べよう!みんなでスキヤキだ!」
スキヤキ鍋を囲む5人。
鍋奉行の友彦が張り切って指示をするのを無視して、
みんなが箸で鍋をつつく。
みんなから遅れて箸を伸ばそうとする美知留。
「美知留遅れとってんじゃん。」
瑠可は美知留の皿を奪う。
「肉入れてあげるから。」
「ありがとう。」
「あと、豆腐と、白滝と、ネギと、食えないもんある?」
「ううん。」
「なんかさー、瑠可の美知留ちゃんに対する態度って、」とエリ。
「何?」と瑠可。
「男みたいなんだよね。
男がうーんと年下のさ、可愛くてしょうがない彼女を、
庇ってるみたい!」
「...そう?」とタケル。
「俺わかる俺わかる!」と友彦。
「そんなことないよ。私誰にでも優しいもん。」と瑠可。
「えーっ、そんなことないー。
私への態度と全然違うー。」とエリ。
「そう?」
「うん。
まあ美知留ちゃんはね、保護本能をくすぐるところがあるからね。」
「うんうんうん!そうそうそう!
...全くさー、こんな可愛い子を、叩いたり蹴ったりするて...
どんな男だよ。」と友彦。
「うん。」とエリ。
「見た目は普通の男だよ。」と瑠可。
「中身はサイテーだね!」とエリ。
「変態だよな、間違いなく!」と友彦。
「宗佑のことそんな風に言わないで。」
美知留の言葉に驚く4人。
「宗佑だって...叩きたくて叩いてるんじゃなくって...
私を叩く時は、自分も苦しんでるんだと思うんだ。
...わかって、もらえないかもしれないけど...。」
「いたいけだなー、美知留ちゃん。
こんなにされてるのに...。」と友彦。
「...とにかくさ、今は、飲んで、食べて、
元気出そうよ、ね!」とタケル。
「そうだね!
じゃあこれ食べたら、みんなでババ抜きしようよ。」と瑠可。
「よし!」とタケル。
「又ババ抜き!?」と友彦。
「また寝れないよー...」とエリ。
そんなみんなの様子に美知留も微笑む。
「ほら、美知留ちゃんも飲んで。」タケルがビールを注ぐ。
重くなりそうな雰囲気を、タケルが上手に変えてくれました。
気が利く、優しい人です。
翌日、美知留はアシスタントとしてタケルの職場に同行する。
華やかな職場の雰囲気を見渡す美知留。
「おはようー。」モデルがメイク室にやって来た。
「あ、おはようございます。
あの、今日ちょっとあの、アシスタント連れてきたんですけど。」
「藍田です。よろしくお願いします。」
「ふーん。彼女?」
「いや...違いますけど。」
「そっか。なんだ彼女いたんだー。
何度粉かけてもなびいてこないから、
てっきり男が好きなのかと思ってた。」
「...」
「ゲイだって、みんなも言ってるし。」
「ゲイ...」驚く美知留...。
「気にしないでいいよ。」とタケルが言う。
撮影スタジオ
モデルの髪?メイクを丁寧に直していくタケル。
美知留はタケルを誇らしげに見つめ...。
雑貨やでペアカップを選ぶ智彦。
「どう?こういうの、どうかな。」
「えーっ、てか本当に買うんですか?ペアのカップ...。」とエリ。
「じゃあ、こっちはどう?」
「私達そういう仲なのかなー...。」
そう言い歩き出すエリ。
エリを追いかけようとした時、友彦はあるカップルに気づき立ち止まる。
「何?どうしたの?」とエリ。
「あれ...うちの奥さん...」
「え!?」
若い男と腕を組み楽しそうに歩く女性がいた。
友彦が妻に向かって歩き出す!
...と思ったら急に違う方向へ曲がり、
二人が鏡越しに見える場所で、商品を見ているふりをして監視。
「これ、私前から欲しかったんだー!」と妻。
「買ったら?」と男。
「買ってやるじゃねーのかよ!」小声で怒る智彦。
店員が友彦に声をかけると、
「えっと...ちょっとまだ、見てますんで。」とエリーがごまかす。
妻が財布からクレジットカードを取り出すのに友彦が気づく。
「俺のカードだよ...あれ...。」
カフェ
「いいんですか!?勝手にカード使われて!
権利は権利として主張した方がいいですよ!」とエリ。
「うん...。」
「奥さんとちゃんと話した方がいいです!
って、それが出来ないからずるずるうちにいるんだろうけど...。」
「エイコ...さっき嬉しそうだったな...。
あんなに喜ぶんだったら...
俺が買ってやれば良かった...」
そう言い涙ぐむ友彦。
エリがハンカチを差し出す。
「ありがとう...」
「バッカだなー。まだ愛してるんだ。」
「...」
友彦の泣く姿を見つめていたエリは微笑むと、「よしよし!」と頭を
撫で、励ますだった。
エリは一度関係を持った友彦が妻を今でも愛していると知っても、
嫉妬はしないようです。
そんな折、モトクロスの練習場でトレーニングをしていた瑠可は、
遠くからじっとこちらを見つめている宗佑の姿に気づく。
ロッカールームからバイト中のタケルに電話をする瑠可。
「もしもし?どうしたの?」とタケル。
「そこに、美知留いる?」
「手伝ってもらってるけど。」
「今、美知留の彼がいたんだ。」
「え!?」
「私の後をつけて、シェアハウスに来るつもりだよ、きっと。
何とかして撒くつもりだけど。」
「うん...」
「今夜は美知留を一人にしないでほしいんだ。
私は時間を潰して帰るから。
あと...美知留には言わないで。
動揺すると思うから。」
「わかった。」
「よろしく!」
ロッカールームを出ようとした時、窓の外の宗佑の影。
意を決して勢いよくドアを開けると、林田が驚いて振り返る。
「なんだいたのかよ。
急に消えるからどこ行ったのかと思ったよ。」
「...林田さん、今夜飲みにいきません?」
「は?...おぉ!いいよ。」
「私、最近ストーカーに付けられてるんですよ。」
「え?お前が!?」
「あり得ないですよね!」
ロッカールームの階段にいた宗佑は...。
居酒屋で飲む瑠可と林田。
「お前みたいなのを付回す男がいるとはな。色気ねーのに!」と林田。
「その話はやめて下さい。」
「あっそう。わかりました。
じゃあ何の話題がいいの?」
「どうやったら、男性並のスピードが出せて、
全日本選手権に行けるかってこと。」
「...そりゃあ一朝一夕にはいかないな。」
「それはわかってます。」
「でも不可能じゃない。...と、思ってねーとな。
肉体的ハンディは克服できない。
俺もさ、昔は体重軽くて苦労したんだよ。」
「へー!監督が!?」
「ああ。どんだけ食っても全然筋肉つかなくてな。
毎日プロテインと生卵だよ。」
「へー!その話もっとよく聞かせて下さいよ。」
「お!聞きたいの?」
「聞きたいです!」
店を出た二人は楽しそうに高円寺ストリートを歩いていく。
「だからさ、コーナー曲がる時はこんな感じよ。
自分の中で、重心、ぐーっと寄せてさ!
トラクションかかれーって!」
「ああ、わかるわかる!でもそこが難しいんだよ。」と瑠可。
「そう、難しいんだよ。
でもさ、出来たーって思う時、あんだろ?
爽快だろ?そん時!」
「うん。」
「そういうのは見ててもわかるんだよ。
お前、今日の、7周目のあの感じ、忘れんなよ。
さいっこうのコーナリングだったよ。」
「はい!頑張ります!」
「よし!お前はいい後輩だ!岸本!」
「可愛げなくてすみません。
でも、私バイクには命かけてますから。」
「バカヤロウ。命なんかかけるな。
安全第一だよ。」
「わかりました!」
その時、転びそうになった瑠可を林田が支える。
「おい、大丈夫か?」
林田の言葉に瑠可が笑う。
その時...林田は瑠可を抱きしめる。
「やめて下さいよ冗談。」と瑠可。
次の瞬間、林田は瑠可にキス。
不快な表情を浮かべる瑠可は、震える手で林田を思い切り突き飛ばすと、
「やめろっつってんだろ!」
そう叫び、その場を走り出す。
公園
水道の水を両手ですくい、唇を洗う瑠可。
自分の震える手を見つめ...瑠可は泣いていた。
タケルが働くバー
「いらっしゃい。...瑠可!」
「...」
「上手く撒いた?あいつ。」
「ああ、大丈夫だよ。」
「...他の客は?」
「今一組帰ったとこ。」
「美知留は?」
「エリーとオグリンが迎えに来て、先帰ったよ。」
「そう。」
「...どうしたの?」タケルが瑠可に水を出す。
グラスを持つ瑠可の手が震えだす。
その様子に気づいたタケルは瑠可の横に座る。
「...何があったか話して。」
「男に襲われた。」
「...え!?」
「美知留の彼じゃないよ。
前からよく知ってる人で...
別に嫌いな人じゃない。
でも...触られたら...ぞっとした。
私ダメなんだよね、そういうことされると。
相手にっていうより...そういうことされてる自分にぞっとして。
...わかんないよね。」
「いや...」
「ダメだな、ほんとに...こんなことぐらいでさ...。
私...強くなりたいのに...。
強くなきゃいけないのに...。
美知留の為にも...。
ダメだほんとに...。」
そう言い泣き出す瑠可。
瑠可の話を聞いていたタケルも涙をこぼす。
そして涙を拭い、瑠可の隣りの席に移る。
「肩抱くよ。」
瑠可が頷くと、タケルは瑠可の肩を優しく抱く。
「...俺のこと、怖い?」
瑠可が首を横に振る。
「タケルは...怖くない。
タケルは...大丈夫だ。」
「ここでなら、泣けるだろ?
泣いていいよ。」
タケルの言葉に、瑠可は号泣し...。
瑠可とタケルが抱えているものは、同じではないけれど、
とても似ているのかもしれませんね。
だからタケルには瑠可の痛みがよくわかる。
タケルの優しさが染みてきます。
瑛太さんはメークアップアーティストとしても様になってますが、
瑠可にただ水を出す姿も、本物のバーテンさんのよう。
私の中で瑛太さんの株、急上昇中です!
タケルの温かさに涙を出し切った瑠可は、すっきりとした表情で
シェアハウスに戻ります。
シェアハウス
「ただいま!」
「お帰り!」と美知留。
「遅かったじゃん。
三人でババ抜きはつまらないから、
今日はジェンガハムニダー!」とエリ。
「オグリンが、負けまくり!」と美知留。
「うー...でもなんか、美知留ちゃんに、オグリン!って言われると、
胸が、きゅ~ん...」
慎重に一本引き抜こうとしている友彦の頭を叩く瑠可。
ジェンガが崩れる。
「あーあ!」
「バーカ!
ねえ、ウノでリベンジしよ!」と瑠可。
「いいねいいね!」
「あ、じゃあ俺コーヒー入れてくるね。」とタケル。
「あ、私紅茶がいい!」とエリ。
「OK!」
「その日、誰も知らない君の弱さを俺は知った。
君が美知留を守るなら、
俺が君を守ろうと思った。」
「美知留、今日はどうだった?」瑠可が聞く。
「うん、タケル君の、仕事場に連れてってもらって、
世界は広いなって、思った。」
「世界は広いなーか。」と友彦。
「髪型だけじゃなくて、お化粧とか衣装とかトータルコーディネートして、
魔法みたいに空気変えちゃうの。
すごいなーって思った!
私は、いつも目の前のお客さんの髪を見ているだけだから...。」
「まあ、世界は広いし、男だってごまんといるんだ。
何も、暴力男だけじゃないよ。」と瑠可。
微笑を浮かべて頷く美知留。
「彼は...美知留ちゃんの手足を縛って、
狭い世界に閉じ込めておきたかったのかもな。」と友彦。
「そうかもしれないね。」笑顔で美知留が言う。
「はい、コーヒー入れたよー。」
タケルが運んできたトレーには、5つのお揃いのマグカップ。
「これが、オグリン。」緑色のカップ。
「これが、エリ。」オレンジのカップ。
「えー!タケル買ってきてくれたの?気が利くじゃん!」感激するエリ。
「タケルだもん!」と瑠可。
「で、美知留ちゃんは、これ。」ピンク色のマグカップ。
「ありがとう!すごい嬉しい!」
「ね、乾杯しよう!」と瑠可。
「乾杯しよう!」とタケル。
「乾杯ー!」
朝
洗面所の鏡を見ながら絆創膏を剥がす美知留。
モトクロス練習場
「おはようございます!」
いつものように元気に林田に挨拶する瑠可。
「...八の字やっとけ。」
林田は気まずそうに瑠可に背を向ける。
「林田さん...。
私の顔、見て下さい。」
林田が顔を上げる。
「昨日のことは、なかったってことで。」
「...そうだな!すまん!
いやあ、俺もどうかしてたんだよ。
相当酔っ払ってたからなー。ハハハ。」
「私は、林田さんのことをレーサーとして尊敬しています。
友情も感じてます!
尊敬も友情も、出来れば壊したくないんで...よろしく。」
「わかったよ。」
林田さんはこれからは瑠可の良き理解者となってくれそうで、
ほっとしました。
屋外の撮影で、モデルのメイクを直すタケル。
フライト中、乗客に笑顔で声をかけていくエリ。
機内食を試食する役員たち?に説明をする智彦。
シェアハウス
美知留はテレビを消して考え込む。
ふと、携帯に気づき、それを手に取ると、美知留はためらいながらも
着信履歴を確認してみる。
藍田家...母・千夏倍賞美津子から何度も電話が入っていた。
「あ?美知留?良かった!やっと連絡取れて。」
「どうしたの?」
「うん?なんとなくね。
あんた男と住むってうち出たっきり、顔見せないでしょ。
どうしてるかなーと思って。」
「元気だよ。お母さんは?」
「うん!こっちも元気。
ケンちゃんとも仲良くやってるよ。」
「そう。良かったね。」
「それでね...お金がちょっと足んなくなっちゃったんだよねー。」
「今月の家賃は振り込んだよ、もう。」
「うん。でもさ...あの人大食いでね。
食費とかもいろいろ嵩んじゃってさ。」
「...わかった。じゃあ、あとでまた、振り込んでおく。」
「たまには、顔見せなよ。
この間ね、ケンちゃんと一緒に伊香保の温泉行ってきたの。
お土産買ってきたから、それも渡したいしさ。」
その日の夕方(千夏の服装が同じなので、多分同じ日)
インターホンの音に、「やっと来た!」と母・千夏は呟き、
玄関の戸を開ける。
立っていたのは、美知留ではなく、瑠可だった。
「美知留の代わりに来ました。岸本瑠可です。
中学、高校と同郷だったんですけど、覚えてませんか?」
「...そういえばそうだったかしらね。」不機嫌そうな母。
「あの...これ。美知留からです。」
「あ...ありがとう!美知留によろしく伝えといて。」
封筒の中身の金を確認しながら千夏が言う。
「あの...お土産とか、あるなら渡しておきますけど。」
「お土産?」
「伊香保温泉の。」
「...あ...ああ!」
千夏が部屋の奥に取りに行く。
玄関に一歩足を踏み入れた瑠可が、何かを察する。
「ちょっと古くなっちゃったけど、賞味期限大丈夫かしら。」
千夏が饅頭を渡す。
「それじゃ。」
「ねえ、あの子今どこにいるの?
彼と一緒に住むって言ってただけで、
ケンカでもして、外出ちゃったんでしょ。」
「...」
「あの子私に似て、要領悪いところあるから。」
「いずれ、美知留の方から連絡させます。
ごめんなさい。」
瑠可が足早に去っていく。
「私も親よ、あの子の!ねえ!ちょっと!」
千夏を無視して自転車を走らせる瑠可。
千夏のアパートに、宗佑がいた。
「悪かったね、上手く聞き出せなくて。」
急いで靴を履く宗佑。
「お金。」
千夏が封筒を渡そうとするが、宗佑は受け取らない。
「ありがとね!助かったわ!」
宗佑が出ていく。
自転車を停めた瑠可は振り返り...そして先を急ぐ。
シェアハウス
美知留が風呂に入っている間に、瑠可がエリと友彦に話す。
「で?会ってきたんだ、美知留ちゃんのお母さんに。」とエリ。
「うん。」
「どんな人?」
「美知留には、あんまり言えないけど...
私は...あのお母さんあまり好きじゃないよ。」
玄関のノブをガチャガチャ回す音。
「タケルかな?ちょっと見てくるね。」エリが玄関に向かう。
「...あ!エリ!待って!」
瑠可が止めるのが間に合わず、エリはドアを開けてしまう。
立っていたのは...宗佑だ!
「美知留ここにいますよね?」
「いませんよ。」と瑠可。
「いるんでしょう?会わせて下さい。」
「いません。」
宗佑は携帯を取り出し電話をかける。
すると美知留の携帯が部屋の中で着信音を鳴らす。
「ほらね。いるのはわかってるんだ。」と宗佑。
「...いたとしても、あなたに会わせません。
あなたが美知留にしてきたこと、全部わかってますから。
そんなバカなこと、死んでも出来ません。」と瑠可。
「。。。美知留!」部屋に上がりこもうとする宗佑。
「出てって下さい!」それを阻止する瑠可。
「無理やり押し入ったら、警察呼びますよ!
エリ!」
瑠可に言われ、エリが電話に移動する。
「区役所に務めてんのに、ヤバイですよね、警察なんて。」
「。。。」
瑠可は宗佑を押し、玄関の戸を閉めてしまう。
シェアハウスを出ていく宗佑。
雨が降ってきた。
「帰った...かな。
帰んないよね...あの感じじゃ...」とエリ。
美知留が風呂から出てきた。
「みっちるちゃん!どう!?いいお湯だった?
ハーブの入浴剤、いい香りだったでしょ!」とエリ。
「...うん。」
「喉、渇いてたね!なんか、冷たいものでも飲もうか。」と友彦。
「...ありがとう。
どうしたの??」
「風呂上りの美知留見てドキドキしてんじゃない?」と瑠可。
「お、俺、そんなことないない!」と友彦。
雨の中、自転車で帰宅したタケルは、公園の柵に腰掛ける宗佑の姿に
気づく。
「お帰り!」瑠可が出迎える。
「美知留ちゃんは?」
「部屋にいるよ。
多分もう寝てると思う。」
「...あの男がいたよ。家の前に。」
「まだいるのかよ、あいつ...」
「え...来たの!?」
「私がつけられてたんだ。油断してた。
...こうなったら、あいつが諦めるまで、
美知留を外に出しちゃまずいな。」
「俺、今夜起きてるよ。」
「いいの?」
「だって、美知留ちゃん心配でしょう?」
タケルはそう言うと、カーテンをそっと開けて外を確認する。
「いるよ...。」
「え!?」
「まだあそこにいる!」
瑠可も外を見てみると、宗佑は雨に濡れるのもかまわず
家の前の柵に座っていた。
美知留の部屋
眠れずにいた美知留は、窓の外をぼんやり見つめ...。
瑠可の部屋
ベッドで膝を抱えて座りながら、不安な表情を浮かべる瑠可。
二人の部屋の壁には、窓を伝う雨の影が映っていて、
とても綺麗。
リビング
タケルは美知留が起きてきたことに気づく。
「美知留ちゃん。」
「ちょっと、眠れなくて。」
「ハーブティー、入れてあげようか?」
「あるの?」
「うん。ラベンダーとカモミール。
神経を落ち着かせる作用があるんだ。」
「ありがとう。」
「タケル君の家族って、どんな感じ?」
「え?
うちは普通だよ。
サラリーマンの父親に、専業主婦の母親。
それと、姉が一人。」
「お姉さんいるんだ。そんな感じするね!
仲いいの?」
「うーんどうかな。
え、何でそんなこと聞くの?」
「美味しいコーヒーとか、お茶とか入れる人って、
きっと穏やかで、いいおうちに育ったんだろうなって思って。」
「うん。」
「私はね...父と母が仲悪くて、中学の時、離婚したの。
それで、母は、ずっと外で働いてて。
私は家で、一人だった。
宗佑も、...私の彼だけど、私と似てて...。
お母さんに育てられたんだよね。
そのお母さんも、恋人が出来て...
宗佑が小学生の時に、家を出ていっちゃったんだって。
それで宗佑は、親戚の家、あっちこっち預けられて。
あ...ごめん。彼の話なんて興味ないよね。」
「いいよ。」
「最初に会った時に、似てるなーって思った。
私達、一人ぼっちどうしだなって。
ここで、みんなに良くしてもらっていると、
宗佑に悪いような気になる。
宗佑は一人ぼっちなのに...」
「...そんなこと思う必要はない。」
「...」
「それに...一人ぼっちっていうなら...みんなそうだよ。」
「そうかな...。
それは...いろいろじゃない?
瑠可なんて、この前のレースの時に、
家族みんなが応援に来てくれて。
すごい...あったかい感じで...。
なんか...私...ちょっと羨ましかった...。」
「人がどれ位孤独かなんて...傍から見てるだけじゃわかんないよ。
瑠可もそうだし。」
「...」
「宗佑...
あの夜、窓を叩く雨音を聞きながら、
私は、あなたのことを思って過ごした。
瑠可...
私を許して。
私はあなたの苦しみには、気づかなかった。」
瑠可の部屋
カーテンを開けて外を調べる瑠可。
宗佑の姿はもうなかった。
朝、ソファーで眠るタケルにブランケットをかける瑠可。
彼の寝顔をしばし見つめる。
そこへ、美知留がやって来た。
瑠可の姿に気づいたような美知留の仕草。
携帯をチェックするのを見られたくなかったのかな?
「おはよう、瑠可。」
「あ、おはよう。」
「雨、上がったかな。」
カーテンを開ける美知留。瑠可も慌てて窓に向かう。
「まだみたい。」と瑠可。
「うん...。」
「ゴミ出してくるよ。今日燃えるゴミの日でしょ。」と瑠可。
「待って瑠可。私がいくよ。
その格好だし、休んでて。」
「ありがとう。」
「うん!」
雨の中傘を差し、ゴミ捨て場に向かう美知留。
途中、携帯を取り出し...。
着信を確認しただけ?
瑠可に宗佑のメッセージを聞いたことを怒られたので
こっそりチェックしているんですね。
ゴミ捨て場にゴミを置いた美知留は、シェアハウスに戻ろうとした時、
宗佑が雨にずぶ濡れで座っているのに気づく。
「宗佑!!」
「...」
「宗佑...」
「...」
「私のこと...待ってたの?
いつから?
まさか、一晩中ここにいたの?」
宗佑が立ち上がる。
「...美知留。
僕は...いつも...君を待ってる。
待つのは辛くないんだ...。」
美知留は傘を捨て、宗佑を抱きしめ...。
「宗佑...。」
宗佑をぎゅっと抱きしめる。