[白文]16.子曰、不患人之不己知、患己不知人也。
[書き下し文]子曰く、『人の己れを知らざるを患えず(うれえず)、人を知らざるを患う。』
[口語訳]先生(孔子)がこうおっしゃった。『他人が自分を認めないことは心配いらない、自分が他人を認めないことのほうを心配しなさい。』
[解説]孔子の控えめで慎み深い謙譲の精神の結実として知られる最も有名な論語の章である。学問に励んでその成果を他人に認めて貰いたい、人徳を高めてその業績を社会に認めてもらい、輝かしい立身出世を果たしたいという気持ちは分かるが、孔子は、自分の価値や能力を認めて貰いたいのであれば、まずは自分の周囲にいる優れた人物の価値を認めなさいと説いたのである。また、この章は、能力と意欲があるのになかなか立身出世(高位の役職への仕官)を果たせない弟子たちの焦りと不安を収めるための孔子の気遣いであったとも言われる。