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来自月亮的使者(一)
日期:2014-05-23 15:18  点击:753
【月からの使者】
 
(一)
 かかるほどに、宵内過ぎて、子(ね)の時ばかりに、家の辺り昼の明(あか)さにも過ぎて光りわたり、望月の明さを十あはせたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。大空より、人、雲に乗りており来て、土より五尺ばかりあがりたるほどに、立ちつらねたり。これを見て、内外(うちと)なる人の心ども、物におそはるるやうにて、あひ戦はむ心もなかりけり。からうじて思ひ起こして、弓矢をとり立てむとすれども、手に力もなくなりて、なえかかりたり。中に心さかしき者、念じて射むとすれども、ほかざまへ行きければ、あれも戦はで、心地ただしれにしれて、まもりあへり。立てる人どもは、装束(しやうぞく)の清らなること、ものにも似ず。飛ぶ車一つ具したり。羅蓋(らがい)さしたり。
  
(現代語訳)
 
 こうしているうちに、宵の時刻が過ぎ、午前0時ごろに、家の周りが昼の明るさ以上に一面に光りわたり、満月の明るさを十倍にしたようで、そこにいる人の毛穴まで見えるほどだった。空から人が雲に乗って降りてきて、地面から五尺ほど上がったところに立ち並んでいる。これを見て、家の内外にいる人々の気持ちは、物の怪に襲われるようで、戦おうとする気持ちもなくなった。何とか思い起こして弓矢を取って矢をつがえようとするが、手に力が入らず萎えてしまった。その中で心のしっかりした者が、恐怖をこらえて矢を放とうとしたが、あらぬ方向へ飛んでいってしまい、荒々しく戦うこともなく、ただ茫然として、お互いに見つめ合っている。立っている人たちは、衣装の美しく華やかなこと、比類がない。空飛ぶ車を一台ともなっている。車には薄絹を張った天蓋(てんがい)が差しかけてあった。

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