三 むぐらの宿に
昔、男ありけり。懸想(けさう)じける女のもとに、ひじき藻といふ物をやるとて、
思ひあらば葎(むぐら)の宿に寝もしなむひじきものには袖をしつつも
【現代語訳】
昔、ある男がいた。恋をした女のもとに、ひじき藻というものを贈るというので、このような歌をつけて贈った。
<もしあなたに私を思う気持ちがあるのなら、むぐらの生い茂るあばら家ででもいっしょに寝ましょう。たとえちゃんとした引敷物(ひきしきもの)がなくても、袖を敷きながらでも。>
(注)ひじきもの ・・・海藻の「ひじきも」と夜具の「引敷物」の掛詞。