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伊勢物語(八十三)
日期:2014-05-26 15:22  点击:540
八十三 草ひき結ぶ
 
 昔、水無瀬(みなせ)にかよひ給ひし惟喬(これたか)の親王(みこ)、例の狩しにおはします供に、右馬(うま)の頭(かみ)なる翁(おきな)つかうまつれり。日ごろ経て宮にかへり給うけり。御おくりしてとくいなむと思ふに、大御酒(おほみき)たまひ、禄(ろく)たまはむとてつかはさざりけり。この馬の頭心もとながりて、
 
  枕とて草ひき結ぶこともせじ秋の夜とだにたのまれなくに
 
とよみける、時はやよひのつごもりなりけり。親王おほとのごもらであかし給うてけり。
 かくしつつまうでつかうまつりけるを、思ひのほかに御髪おろし給うてけり。む月にをがみたてまつらむとて小野にまうでたるに、比叡(ひえ)の山の麓(ふもと)なれば雪いと高し。しひて御室(みむろ)にまうでてをがみたてまつるに、つれづれといと物がなしくておはしましければ、やや久しくさぶらひて、いにしへのことなど思ひ出で聞こえけり。さてもさぶらひてしがなと思へど、公事(おほやけごと)どもありければ、えさぶらはで夕暮にかへるとて、
 
  忘れては夢かとぞ思ふ思ひきやゆきふみわけて君を見むとは
 
となむなくなくきにける。
 
 
【現代語訳】
 昔、水無瀬の離宮に都から通っていらっしゃった惟喬親王が、いつもの鷹狩りをしにおいでになる供として、馬寮の長官だったある老人がお仕えした。何日か過ごして親王は都の宮の御殿にお帰りになった。馬寮の長官は御殿までお送りしてすぐに自分の邸に戻ろうと思ったが、御酒を下さり、狩りのお供の褒美を下さるとして、お帰しにならなかった。馬寮の長官は早く帰宅のお許しをいただきたいと待ち遠しく、
 <今夜は旅先の仮寝の草枕をつくるために草を結ぶつもりはありません。秋の夜長とさえたのみにできないはかない一夜ですから。>
と詠んだ。時節は(陰暦)三月の末であった。しかし、親王は寝所にはお入りにならず、ともに徹夜をしてしまわれた。
 このように、いつも親密に参上しお仕えしていたのに、親王はまったく思いがけず御剃髪してしまわれた。正月に拝礼申し上げようと小野に参上したが、小野は比叡山のふもとなので、雪がたいそう高く積もっている。難儀を極めて親王の僧房に参上して拝礼申し上げると、親王はなさることもなく、たいそう寂しく悲しい御ようすでいらっしゃったので、かなり長い時間おそばに伺候して昔話などを思い出してお聞かせした。そのようにしてでもおそばにお仕えしたいと思ったが、宮中の行事などがあったので、伺候できずに夕暮れに都へ帰ることになり、
 <現実を忘れると、今のことを私は夢かと思います。訪れる人のない山里の深い雪をふみわけて、このようなわび住まいをしていらっしゃる御前様にお目にかかろうとは、かつては思いもしませんでした。>
といって、泣く泣く都に帰ってきた。

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