百五 白露は
昔、男、「かくては死ぬべし」といひやりたりければ、女、
白露は消(け)なば消ななむ消(き)えずとて玉にぬくべき人もあらじを
といへりければ、いとなめしと思ひけれど心ざしはいやまさりけり。
【現代語訳】
昔、ある男が、恋に患い「このままでは死んでしまうだろう」と言いやったところ、女は、
<はかない白露は、消えてしまうなら消えてほしいものです。たとえ消えなくても、飾りの玉として紐にさし通すような人もいないでしょう。だから、どうぞご自由に。>
と言ったので、男はえらく無礼な女だと思ったが、女を思う気持ちはいっそう強くなってしまった。