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【末摘花篇】雪の激しく降る日
日期:2014-06-16 15:00  点击:905
◆ 雪の激しく降る日
 
 いとど、憂ふなりつる雪、かきたれ、いみじう降りけり。空の気色はげしう、風吹き荒れて、大殿油(おほとなぶら)消えにけるを、ともしつくる人もなし。かの、ものに襲はれし折、思し出でられて、荒れたるさまは劣らざめるを、ほどの狭(せば)う、人気(ひとげ)のすこしあるなどに慰めたれど、すごう、うたて寝(い)ざとき心地する夜のさまなり。をかしうもあはれにも、様(やう)かへて、心とまりぬべきありさまを、いと埋(む)もれすくよかにて、何の栄(は)えなきをぞ、口惜しう思す。
 
 からうして明けぬる気色(けしき)なれば、格子、手づから上げたまひて、前の前栽(ぜんざい)の雪を見たまふ。踏みあけたる跡もなく、はるばると荒れ渡りて、いみじう寂しげなるに、ふり出でて行かむこともあはれにて、「をかしきほどの空も見たまへ。尽きせぬ御心の隔てこそ、わりなけれ」と、恨みきこえたまふ。まだほの暗けれど、雪の光にいとど清らに若う見えたまふを、老い人ども、笑み栄(さか)えて見奉る。
 
 「はや出でさせたまへ。あぢきなし。心うつくしきこそ」など教へ聞こゆれば、さすがに、人の聞こゆることを、えいなびたまはぬ御心にて、とかう引きつくろひて、ゐざり出でたまへり。
 
 見ぬやうにて、外(と)の方(かた)を眺めたまへれど、尻目(しりめ)はただならず。「いかにぞ、うちとけまさりの、いささかもあらばうれしからむ」と思すも、あながちなる御心なりや。
 
(現代語訳)
 
 ますます、女房たちが辛いと言っていた雪が激しく降ってきた。空模様は険しく、風が吹き荒れて、明かりが消えてしまっているのに点し直す人もいない。源氏は、あの、魔物に襲われた時を思い出しになられて、荒れたようすは劣らないようだが、邸の狭い感じや人気が少しあるなどで安心していたが、物寂しく不気味で、寝つかれそうにない夜のありさまである。このような情景は、趣も感じられ、しみじみと胸を打つものがあり、風変わりに心がひきつけられそうなようすなのに、姫君がひどく引っ込み思案で、潤いや優しさに欠け、何の取り柄もないのを、残念にお思いになる。
 
 やっと夜が明けた気配なので、源氏はご自分で格子をお上げになり、前庭の植え込みの雪をご覧になった。踏み分けた跡もなく、広々と荒れわたってたいそう寂しそうなので、姫君を振り捨てて帰るのも気の毒に思い、「風情のある空をご覧なさい。いつまでも打ち解けて下さらないお心が、理解できません」と、恨みごとを言われた。まだほの暗いが、雪の光に源氏がますます美しく若々しくお見えになるのを、老いた女房たちはにこにこして拝し上げる。
 
 「早くお出ましなさいませ。引っ込んでいらしてはいけませんわ。女は素直なのがいちばんですよ」などとお教えすると、何と言っても、人の申すことをお拒みになれないご性格なので、あれこれ身支度して、いざり出てこられた。
 
 源氏は姫君を見ないようにして、外を眺めていらっしゃるが、横目の使い方は尋常でない。「どんなに、馴れ親しんで見たときに、少しでも良いところを発見できれば嬉しかろうが」とお思いになるのも、身勝手なご注文というものだ。

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