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【すさまじきもの】 ~第二十三段(三)
日期:2014-06-29 16:55  点击:3943
(三)
 除目(ぢもく)に司(つかさ)得ぬ人の家。今年は必ずと聞きて、はやうありし者どもの、ほかほかなりつる、田舎だちたる所に住む者どもなど、皆集まり来て、出で入る車の轅(ながえ)もひまなく見え、もの詣(まう)でする供に、我も我もと参りつかうまつり、物食ひ酒飲み、ののしり合へるに、果つる暁まで門たたく音もせず、あやしうなど、耳立てて聞けば、先追ふ声々などして上達部(かんだちめ)など皆出でたまひぬ。もの聞きに、宵より寒がりわななきをりける下衆男(げすおとこ)、いともの憂げに歩み来るを見る者どもは、え問ひだにも問はず、外(ほか)より来たる者などぞ、「殿は何にかならせたまひたる」など問ふに、いらへには「何の前司(ぜんじ)にこそは」などぞ、必ずいらふる。まことに頼みける者は、いと嘆かしと思へり。つとめてになりて、ひまなくをりつる者ども、一人二人すべり出でて去ぬ。古き者どもの、さもえ行き離るまじきは、来年の国々、手を折りてうち数へなどして、ゆるぎありきたるも、いとをかしうすさまじげなる。
 
(現代語訳)
 
 除目の折に官職を得られなかった人の家は興ざめがする。今年は必ず任官だとのうわさを聞いて、以前に奉公していた者たちで、散り散りになっている者や田舎めいた所に住む者たちがみんな集まってきて、出入りする牛車の轅もひっきりなしに見え、主人が任官祈願に寺社に参拝するお供にと、我も我もと参上し、物を食い、酒を飲んで騒ぎあっているのに、任官の審議が終わる明け方まで門をたたく音もせず、おかしいなと耳をすませば、人を先払いする声などがして、会議を終えた上達部たちはみな退出なさってしまった。情報を聞くために宵から出かけて寒さに震えた召使いが、いかにも憂鬱げに歩いてくるのを見た人たちは、声をかけて尋ねることもできず、よその者が「ご主人は何におなりになりましたか」などと聞くと、「前の何処そこの国司ですよ」と決まって答える。心からあてにしていた者は、ひどく嘆かわしく思っている。早朝になり、すきまなくいた者たちは、一人二人とこっそり立ち去る。古参で、そのように立ち去れない者は、来年に国司が交代するはずの国々を指を折って数えたりして、体を揺り動かしながら歩き回っているのも、ひどく妙な姿で興ざめがするものだ。
 
(注)除目 ・・・ 地方官など、大臣以外の官職を任命する儀式。

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