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【文ことばなめき人こそ】 ~第二百六十二段
日期:2014-06-29 17:13  点击:10269
 文ことばなめき人こそいとどにくけれ。世をなのめに書き流したることばのにくさこそ。さるまじき人のもとに、あまりかしこまりたるも、げにわろきことぞ。されど、わが得たらむはことわり、人のもとなるさへにくくぞある。
 
 おほかた、さし向かひてもなめきは、などかく言ふらむと、かたはらいたし。まして、よき人などをさ申す者は、さるは、をこにて、いとにくし。
 
 男主などわろく言ふ、いとわろし。わが使ふ者など、「おはする」「のたまふ」など言ひたる、いとにくし。ここもとに「侍り」といふ文字をあらせばやと、聞くことこそ多かれ。「愛敬な。などことばは、なめき」など言へば、言はるる人も笑ふ。かくおぼゆればにや、「あまり嘲弄(てうろう)する」など言はるるまであるも、人わろきなるべし。
 
 殿上人、宰相などを、ただ名のる名を、いささかつつましげならず言ふは、いとかたはなるを、けぎよくさ言はず、女房の局なる人をさへ、「あの御前」「君」など言へば、めづらかにうれしと思ひて、ほむることぞいみじき。
 
 殿上人、君達を、御前よりほかにては、宮(つかさ)をのみ言ふ。また、御前にて物を言ふとも、聞こしめさむには、などてかは「まろが」など言はむ。さ言はざらむにくし。かく言はむには、などてわろかるべきことかは。
  
(現代語訳)
 
 手紙の言葉が無礼な人はとてもにくらしい。世間をいい加減に書き流してある言葉のにくたらしさといったらない。大したことのない人のところに、あまりかしこまるのも実に不適当だ。しかし、自分がもらったときは当然とし、人のところに来たものさえにくたらしいものだ。
 
 だいたい、会話においても無礼なのは、なぜそのように言うのだろうかと、いたたまれなくなる。まして、立派な人などをそのように申す者は、実は、愚かで、とてもにくらしい。
 
 男主人などを失礼に言うのは、とてもよくない。自分の使用人を「いらっしゃる」「おっしゃる」などと言うのも、とてもにくらしい。ここで、「います」という文字を使いたいと思って、聞くことが多い。「まあ何と可愛げがないこと。どうして言葉が無礼なのか」などと言うと、言われる人も笑う。このように感じるからだろうか、「あまり人をばかにしている」などと人から言われる場合まであるのも、体裁が悪いに違いない。
 
 殿上人、宰相などを、ただその実名を、少しも遠慮せず言うのは、とても聞き苦しいが、素直にそう言わずに、女房の部屋にいる召使にさえ、「あのお方」「君」などと言うと、めったにない嬉しさと思い、その誉め方は尋常ではない。
 
 殿上人、公達を、御前以外では、役職名だけで呼ぶ。また、御前で何かを言っても、お聞ききになるときは、どうして「まろが」などと言おうか。そんなふうに役職名を言わないのはにくらしい。そう役職名を言うのに、どうして悪かろうか。

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