◆恩讐の彼方に ~菊池寛
若侍・市九郎は、旗本である主人の愛妾お弓と通じ、それを知った主人に斬りつけられ、反対に主殺しの大罪を犯してしまう。市九郎とお弓は逐電し、強盗や人殺しなどの悪事を重ねる。しかし、あるとき、市九郎はお弓のあまりの強欲さに嫌気がさし、身一つで逃げ去る。美濃の浄願寺に駆け込んだ市九郎は、ひたすら仏道修行をし、名も了海と改める。得道した彼は、諸国遍歴のおり、九州耶馬溪の難所を見て、この200間あまりの絶壁をくりぬいて道を通じようと発願、人々に寄進を求めるが誰も耳を傾けず、彼は独力でこの大業にあたろうと決心した。里人の嘲りにも動ぜず、19年間、洞門をうがちつづけた。一方、父の仇を捜して8年、主人の遺児がようやくこの地にたどり着く。了海に援助を始めていた里人たちは、仇討ちはせめて貫通の後でと押しとどめ、二人が並んでのみをふるうこと1年半、ついに洞門は貫通、二人はすべてを忘れ手を取りあって涙にむせんだ。
若侍・市九郎は、旗本である主人の愛妾お弓と通じ、それを知った主人に斬りつけられ、反対に主殺しの大罪を犯してしまう。市九郎とお弓は逐電し、強盗や人殺しなどの悪事を重ねる。しかし、あるとき、市九郎はお弓のあまりの強欲さに嫌気がさし、身一つで逃げ去る。美濃の浄願寺に駆け込んだ市九郎は、ひたすら仏道修行をし、名も了海と改める。得道した彼は、諸国遍歴のおり、九州耶馬溪の難所を見て、この200間あまりの絶壁をくりぬいて道を通じようと発願、人々に寄進を求めるが誰も耳を傾けず、彼は独力でこの大業にあたろうと決心した。里人の嘲りにも動ぜず、19年間、洞門をうがちつづけた。一方、父の仇を捜して8年、主人の遺児がようやくこの地にたどり着く。了海に援助を始めていた里人たちは、仇討ちはせめて貫通の後でと押しとどめ、二人が並んでのみをふるうこと1年半、ついに洞門は貫通、二人はすべてを忘れ手を取りあって涙にむせんだ。