夏休み十日目。今日もいつもと同じ朝がやってきた。目がさめて顔をあらう。いつもより
少しおそい朝ごはんを食べると、大会が間近となった水泳部の練習にそなえて、道ぐのじゅ
んびをする。夏の暑さには、キンキンにひえたお茶がぜっ対にひつよう。氷を入れると、お茶
を水とうにながしこむ。じゅんびはととのった。いやその前に弟と妹の世話もわすれずに…。
そう。今日はいつもとはちがう。ふだんのぼくはこんなことはしない。と言うのも、今朝
は、お父さんもお母さんもいない。きのうの夜、お母さんのぐ合がわるくなって、きゅうきゅ
うのびょういんに行っているからだ。
「だいじょうぶ。すぐに帰ってくるから。ばあちゃんが来てくれるからね。」
そう言って、お父さんとお母さんはびょういんに向かった。お母さんのことが心ぱいな気持
ちも、自分たちだけでだいじょうぶなのかというふあんもあったけど、ぼくは「自分がなん
とかしなきゃ。」という気持ちにすっかり切りかえていた。
そして、じゅんびをしながら、いろんなことを思い出そうとしていた。部活が終わって
帰ったら、いつもお母さんはせんたくを終わらせていたな。そうじをして、昼ごはんの
じゅんびをして、ぼくたちが食べ終わると、弟や妹をお出かけにつれて行ってた。まずは、そこま
じゅんびをして、ぼくたちが食べ終わると、弟や妹をお出かけにつれて行ってた。まずは、そこま
でだ。さあ、何からしよう。ぼくに何ができるんだろう。あれこれ思い出しながらお母さん
のことをいろいろ考えた。「夏休みに入って、大へんだったんだな。」「ぼくたちのためにむ
理してたのかな。」ぼくの中を、いろんな思いがかけめぐる。いつもぼくたちのためにはたら
いてくれているお母さん。毎日ぼくたちのリクエストを聞いて、食事のメニューを考えてく
れる。帰るとげんかんで出むかえてくれて、学校に行く時は、ぼくを元気づけようと声をか
け、見えなくなるまで手をふってくれる。毎日くり返される同じこと。あたりまえにやって
くる毎日、ぼくの周りにはあたりまえのようにみんながいる。でも、それは、本当はあたりま
えじゃない。ぼくはお母さんやお父さん、そして弟と妹の家ぞくみんなに支えられている。
そのあたりまえがどれほどすばらしいことなのか、この夏、ぼくは気づいた。そして、そんな
みんなの思いを大切にしなきゃいけないということも。
部活に出かけようとした、ちょうどその時お父さんの車が帰ってきた。お母さんは、やっ
ぱりしんどそうだったけど、点てきをして少し顔色もよくなり、
「だいじょうぶよ。心ぱいさせたね。」
とわらって言った。
「行ってきます。」
いつもと同じ朝。ぼくは、いつもより大きな声で部活に出かけた。