「どうせお父さんはお兄ちゃんが好きなんでしょ。」
これは二才ちがいの弟が、五才のころに言った言葉。
このころのぼくは、一番お父さんにかわいがられていた。で
も、この言葉のようなじょうたいは、長くは続かなかった。
たしかに、ぼくは長男で、初孫で、親せきのみんなにかわい
がられてきたと思う。
でも、最近は、ぼくより小さい子が「うじゃうじゃ」いて、
ぼくだけを見てくれなくなった。
ぼくは、自分の居る場所がとられてしまったような気がし
た。
そんな時、ぼくと、お父さんと、弟と、いとこで夏祭りの花火
を見に行くことになった。
歩いて行くとちゅう、出店で買い物をしてぼくがゴミ箱に
ゴミを捨てようと、お父さん達からはなれた時、お父さんたち
は、ぼくをおいて先に行ってしまった。
ぼくが迷子になっても気付かないんじゃないの?ぼくは、
なんだか悲しい気持ちになった。
それで、ぼくは、お父さんたちに追いつくと、人ごみでごっ
たがえす中、お父さんたちをおいて先に行ってやった。
ゆかたを着た小さいいとこと手をつないでいたお父さん
が、追いつけないスピードで。だって、腹が立ったから。
でも、本当はわかっていたんだ。お父さんは、弟といとこと
手をつないで両手がふさがっていたし、おりたたみのイスを
六つもかたからさげて、あの人ごみの中を歩くのは大変だっ
たってことは。
ぼくだけを見てほしいと思うのは、わがままなのかな。
夜おそくまで働いて、つかれきって帰ってくるお父さん。仕
事のストレスで、なんだかやせてしまったお父さん。防災の仕
事で、呼び出しがあると、夜中でも飛び起きて出動していくお
父さん。
ぼくは知っている。がんばって働くお父さんのすがたを。
それでも、休みの日は、ぼくのために時間を作って遊んでくれ
る。
よく考えれば、今も、ぼくはお父さんの「一番」だと分かる。
わがままでお父さんを困らせたことをこうかいした。
ぼくだけだったころとちがって、弟や最近生まれた妹も
いっしょに「一番」になっただけで、ぼくが「一番」だって
ことはずっと変わっていなかった。
これからは、ぼくだけを見てほしいとお父さんを困らせる
代りに、お父さんといっしょに、弟や妹をかわいがろうと思
う。
だって僕の「一番」はお父さんだから。