リュックで登校するのは、この間の遠足以来である。今日の
リュックの用途は思いもよらぬ使い方だ。なんと、リュックは
お腹の赤ちゃんになるのだ。五年生恒例の一日妊婦体験だ。私
は、お姉さん達の姿を見て、とてもやりたいと思っていた。
一時間目、先生から妊婦体験の説明があった。妊婦体験と
いっても難しいことではなくリュックに二リットルの水を入
れ、その中に生卵を一個入れて大切に過ごすだけだ。私は双
子なので、クラスのみんなに「二倍二倍」とはやしたてられ
たが、とりあえず一人分で行うことにした。原則は一日どんな
時もリュックを前にだいて過ごすということだ。しかし、トイ
レ、昼休みなど都合の悪い時は少しだけリュックをおろして
も良いのだ。
ただし、都合の悪い時といっても授業やテストの時におろ
してはいけないと注意された。当然のようにクラスのみんな
から不服のごとく声があがったが、私は思った。本当の妊婦は
一日どころか半年以上もお腹に赤ちゃんを入れて普通に生活
しているのだから、私はなるべくリュックをおろさないよう
にして一日生活してみた。
五年生の教室は学校の中でも最上階の三階にある。いつも
は意識することもなくすいすいとあがっている。しかし今は、
一段あがるたびに息が切れてしまう。下りの階段はさらに恐
怖だ。友達とおしゃべりなんてしていられない。なんせ足元
がまったく見えないのだ。もしも転んだらお腹の生卵が割れ
てしまうことを考えるとなおさら慎重になる。さらに、思った
以上に大変だったのが授業である。
( なぜ授業?)と思うかもしれないが、ノートに書いてある字
はリュックがじゃまで読みにくい、字を書くにしてもリュッ
クに入っている水が破水してしまいそうでおっかなびっくり
になってしまう。いつもは普通に出来ることが出来ない。つ
まり、病気ではないのに普通ではないのだ。
私の母の友達も、そしておばあちゃんも皆普通にお母さんを
やっている。でも、初めて思った。お母さん達が私達のことをど
んなに大切にして産んで、育ててくれたかということに気づか
された。夏休みの始まりの頃、私達の誕生日がやってくる。今年
の誕生日は、母に私達双子を元気に産んでくれたことに心から
感謝して「お母さんありがとう」の言葉をおくりたい。