私の大好きなおじいちゃんはアルツハイマー病になってい
る。昨日起こったことでもおぼえていられないほど病気が進
行している。つい最近家族で高尾山に登ったことを写真で明
らかにしても、
「ここどこ?行ったことないよ。」
と言う。孫の私の名前も実の息子である私のお父さんの名前
すら思いだせなくて大切な人ということしかもう分からなく
なっている。
今より少し前、まだそこまで病気が進行してなかったとき、
私の家に1年ぶりに遊びに来たことがあった。そのときおじ
いちゃんは、
「おじいちゃんのこと忘れてないかな? 」
と言っていた。
「忘れるわけないでしょ。」
そう答えた私。今のおじいちゃんにはもう分からないが私の
頭の中にはおじいちゃんとの思い出がいっぱいある。例えば、
まだ幼い私を片手にだっこしながら急に落ちてきた時計をも
う片方の手で見事にキャッチしたこと。また、大きな公園で迷
子になり泣いていた私を一番最初に見つけてくれて手をにぎ
りしめながら家に帰ったこと。思い出が私のなかだけに残さ
れている。おじいちゃんに話してもただ首をかしげるだけ。数
え切れないほどの思い出がおじいちゃんの中には残されてい
ない。思い出すたびに涙がでてくる。世界でたった一人しか
いない私だけのおじいちゃん。私の名前もおじいちゃんが絶
対に「ようこ」がいいって言ってつけたんだよね。日本で生
まれ育った中国人の私。おじいちゃんの大好きな日本と中国
のかけ橋になってほしいという願いのこめられた名前。私ね、
他のどんなかれんですてきな名前よりも「曄子( ようこ)」の
名前が大好きなんだよ。ありがとう。
おじいちゃんのアルツハイマー病が進行している今、現在
この瞬間私のことを忘れてしまったかもしれない。でも私思
うんだ。たとえ私のことを忘れたとしても私はいつまでもお
じいちゃんのことが大好きだからそれでいい。どんなときも
私のことが分からなくてもそばにいてくれるならそれでい
い。そうなるときがいつくるのか分からないけれどそれまで
の残された時間を一緒に楽しくすごそうよ。おいしいもの食
べて色んなところに行って。今までの思い出はちゃんと私の
なかに残されてるから忘れることはないよ。
そして私はおじいちゃんに言う。
「ずっとずっと一緒にいようね。私の大好きなおじいちゃ
ん。」
意味が理解できてるかどうかは分からないけれど言われて少
し笑ったおじいちゃんの笑顔が大好きだよ。私のそばにいて
くれて、ありがとう。おじいちゃん。