米国赴任前、前任記者がもっとも強く勧めたのは意外にも「こたつ」の持ち込みだった。現地の習慣とは違うが、在米日本人の多くは玄関で靴を脱ぐ暮らしをしている。こたつがあれば一層くつろげる、という説明だ。
実際、安物の電気ごたつでも大いに役立った。ただし、くつろぐという状況ではない。安易に選んだワシントン郊外の借家は今年で「築48年」。厳しい冬にガス暖房装置が故障したことがあり、普段は座卓代はりに使っていたこたつを稼働させて「やれ助かった」と潜り込んだのだ。
この借家ではほかにも雨漏りや配水管の破損など、次々に問題が起きた。①それでも怒る気になれなかったのは当方もこの家と同年の生まれで、②あちこちガタが来ているのは相身互いと思えたからだ。
昨年末、こたつや妻子は日本に戻り、単身でアパートに引っ越した。その後に1度、車で旧宅の偵察に出かけ、新たな入居者があったのを確認して③「良かったな。頑張って長生きしろよ」と心の中で呼びかけた。48歳のつまらない感傷だろう。 「中島 哲夫」
練習問題
1、①「それでも怒る気になれなかった」の原因はなんであるか。
古い借家で怒っても仕方がないから。
怒ったら大家さんが直してくれないから。
怒ったら大家さんに追い出される恐れがあるから。
自分もこの借家と同じ年のものであるから。
2、②「あちこちガタが来ている」とはどういう意味か。
いたるところから音が出てくる。
いたるところが痛み始めている。
いろんな人に声をかけられる。
こっちの住民はあっちこっちからやってきたのだ。
3、③「良かったな。頑張って長生きしろよ」とは、実は誰に対する呼びかけですか。
当地の人々に
古い借家とその大家さんに
古い借家と新しい入居者に
古い借家と自分自身に