あなたは、大切な「約束」を交わしたことはありますか?私には、とても忘れることのできない親友との「約束」があります。
それは遡ること十年前。まだ私が六歳のときでした。近所に耳の不自由な女の子が住んでいました。彼女は障害を持っているせいかいじめにあい、友達がおらず、いつも一人で寂しそうでした。しかし目が合うと微笑みかけてくれる彼女に、私は素直に「友達になりたい。」と思うようになりました。彼女と過ごすうちに、彼女の存在は私の中で、とても大切なものになっていきました。
しかし、私が九歳になる頃、家庭の事情で転校が決まり、彼女と離れ離れになることになりました。「そんなに遠くない。」「また、いつでも会える。」そう思っていた私は、軽い気持ちで彼女に転校の話を打ち明けました。彼女は一瞬悲しそうな顔をしましたが、すぐにいつもの笑顔で、「また会おうね。約束だよ。」と手話で伝えてくれました。そして別れの日。見送りに来てくれた彼女から、ジニアという花を押し花にしたしおりをもらいました。ふと見た彼女の目には涙がたまっており、そこで、彼女が私の転校を深く考えてくれていたことを知り、とても嬉しく思ったとともに寂しさが込み上げて、二人で泣きあったことを覚えています。「また会おうね。」これが私が忘れることのできない彼女との約束です。
それから五年。お互い忙しく、私はまだ彼女に会えずにいました。そんな時、部屋の掃除中に見つけたジニアのしおり。懐かしい気持ちに駆られながらしおりを眺めていると、ある疑問が浮かびました。なぜ彼女は、たくさんある花の中からジニアの花を選んだのでしょうか。調べてみると、そこには彼女らしい想いが詰まっていました。さて、皆さん。ジニアの花言葉をご存知でしょうか。ジニアには「別れた友への想い」という意味があるそうです。偶然だったのかもしれませんが、私にはとても、それが偶然だったとは思えなかったのです。別れてから五年、一度も連絡をとっていなかった私達。久しぶりに「会いたいな。」と思い、初めて彼女に手紙を書きました。
「久しぶり。元気ですか?私は元気ですよ。なかなか連絡がとれなくてごめんね。あの時の約束、覚えてる?また会いたいね。」
私が手紙を出してから数日後、彼女から返事が届きました。
「久しぶり。私も元気だよ。あの時の約束も、もちろん覚えてるよ。私も会いたいよ。でも、あと一年待ってもらえないかな?実は耳の手術を受けることになりました。治ったら、あの時の約束を果たしましょう。」
とても驚きましたが、私はすぐに、「待ってるからね。」と返事を書きました。私は、彼女の耳が手術で治るものだということを、この時初めて知り、一人で喜びました。
それからしばらくして、彼女から手紙が届きました。
「待たせてごめんね。来週の日曜日、よく遊んだ公園で待ってるよ。李花ちゃんの声を聞かせてね。」
手術が無事に成功したのだと、この手紙で確信し、また、来週やっと彼女に会えるのだということが嬉しくて、彼女に会う日が待ち遠しかったのを覚えています。
そして、彼女に会う日。私はジニアのしおりを持って、待ち合わせの場所である公園へ行きました。日曜日だったということで、たくさんの子供たちが遊んでいました。その姿が昔の自分達に重ね合わさり、懐かしい思いに浸っていると、後ろから肩を叩かれました。振り返ると、あの頃と変わらない笑顔の彼女がいました。
「ともちゃん。聞こえる?」
私の第一声は、挨拶ではなく彼女の名前でした。大きな空の下、私達は思い出の場所で、やっと約束を果たせたのです。