質問
「やり方」と「しかた」の違いは何ですか?
こたえ
「しかたがない」のような連語や「しかたない」のような形容詞形は「やりかた」にはありません。また、「~の…」というときには「しかた」と続くことが多く、「やり方」は単独で使われることが多いように思います。ただ、「うまくできないのは、お前のやり方が悪いんだ。」のように「~のやり方」と言えないわけではありません。
「しかた」と「やりかた」とは、動詞の「する」と「やる」の違いに対応した意味合いや用法の違いがあるように思います。以下に、少し考えてみます。
「する」も「やる」も(動作性の)名詞を受けて〈主体が状況を成立させる〉という共通の意味をあらわします。「みんなでサッカーをする。」と「みんなでサッカーをやる。」とは、どちらも、主体である〈みんな〉」が〈サッカー〉という状況を成立させるという意味です。よりわかりやすい言い方をすれば、〈ものごとを行なう〉という意味だとえます。ただ、次の用法には共通性がありません。
名詞を動詞化する機能=運動する/矛盾する(*やる)
物や人を変化させる意味=部品をバラバラにする/子供を医者にする(*やる)
行かせる・移動させる意味=手紙をやる/息子を大学にやる(*する)
状態性の名詞を受けて状態・性質を表わす=空が青い色をしている(*やる)
ある状態になる意味=病気をする(*やる)
授受表現=娘に小遣いをやる/植木に水をやる(*する)
その他の用法=[値段や数量を表す]3万円もする本(*やる)、[何かに決める意味]僕はウナギにする(*やる)、[身につける意味]ネクタイをする(*やる)
また、「やる」には、特定の動詞(句)の代わりをするという機能があります。「煙草をやる[=好んでのむ]。」「今の給料ではやっていけない[=安定して生活していけない]。」「競馬でずいぶんやられた[=負けて損をした]。」のように使われます。この場合、「やる」が代行する動詞(句)は、主に慣用的なものですが、直接は表現しにくい事柄が多いといえます。そのため、以下のような解釈の傾向があると思います。
「彼は、今、何をしてるの?」→現在の動作・行動を質問している
「彼は、今、何をやってるの?」→現在の、職業(ちゃんとした職についているかどうか)を質問している
〈主体が状況を成立させる〉という意味での「する」と「やる」との違いは、「やる」の方がくだけた表現(俗語的)で、意志性がより明確だと考えられます。
「息をする/あくびをする(*やる)」
→無意識で無意志的な動作は「やる」ではあらわせない
「彼には才能はないが、やる気(?する気)がある」
→「やる」の方が意志性が強く現れる(参考:補助動詞「きっと合格してやる」)
そのため、「やる」には文脈の制限が強く、「する」の方がより多くの語に一般的に接続することになります。
以上のことから、「しかた」と「やり方」とは、〈行為や行動の方法〉という点では共通していますが、「やり方」の方が意志性が強いといえそうです。
「何と言われようと、これが俺のやり方なんだ!」
→強い意志をあらわしていると考えられる
「やり方(?しかた)がわかりません。」「そんなやり方(?しかた)ではダメだ!」
→「やり方」には〈何かを行なう意志があること〉が前提されているので、それが文脈となり、具体的な状況を伴わずに使っても違和感がない。この場合、「しかた」では文脈がよくわからない。
また、「しかた」の方が、より多くの文脈で使うことができるようです。これは「する」の方が一般的に用いられるのと同じです。
「説明のしかた(?やり方)が悪い。」
→「やり方」には語彙的に結びつきにくい語が多い(文脈の制限が強い)。
なお、すでに述べたように、「やる」は〈ある状態になる意味〉を表わさないので、〈ある状態になる手段〉という意味で「やり方」を使うとおかしくなります。
「動詞との接続のしかた(*やり方)に違いがある。」