質問
「先生が私に推薦状を書いてくださいました。」と「先生が私の推薦状を書いてくださいました。」は、どちらが正しいですか?個人的には、後者のほうがいいような気がします。
こたえ
文法上は、どちらの表現も間違いとはいえないでしょう。ただ、前者は手柄話てがらばなしをしているようで、通常の表現としてはやや不自然かもしれません。
授受表現は、事物の移動を表わすだけでなく、同時に人称を表示します。「やるの?」というだけで、「〈あなた〉は〈彼/彼女〉に与えるのか」だとわかりますし、「くれるの?」といえば「〈あなた〉は〈私〉に与えるのか」だとわかります。また、敬語も、待遇表現というだけでなく、文法上の人称を表示する役割も担っていると考えられます。例えば、「明日参ります。」や「明日はご在宅ですか。」のような無主語の表現では、敬語によって人称が表示されているものと見られます。誰が〈行く〉のか、誰が〈家にいる〉のかが、敬語によってわかるようになっています(上の例では、〈行く〉のは「私」、〈家にいる〉のは「彼/彼女」です)。
質問の例でも、「くださる」は「くれる」の尊敬語ですから、「先生が推薦状を書いてくださいました。」とだけ言えば、〈書く〉という行為の受け手が〈私〉であることがわかるはずです。そのため、「先生が私に推薦状を書いてくださいました。」という文では、「私に」という部分が特に強調されているのだと受けとられることになります。もしかすると、『私だけが特別に書いてもらった(私はそれだけ優秀なのだ・私は先生に高く評価されているんだ)』と言っているように思われてしまうかもしれません。
一方、「先生が推薦状を書いてくださいました。」では、どのような推薦状なのかはわかりませんから、「先生が私の推薦状を書いてくださいました。」と言っても不自然にはなりません。
なお、「先生が私たちに推薦状を書いてくださいました。」は、行為の受け手が複数であるという(語意だけでは読みとれない)情報を含んでいるので、不自然には感じられません。