源頼朝から謀反人として追われることになった弟・義経の恋人・静御前(しずかごぜん)は、京都で白拍子(芸者)をしていた女性でしたが、捕らえられて鎌倉の八幡宮に連行されました。そして、頼朝と妻の政子の面前で舞いを舞うように命じられました。そのときに静は、
静や静 静のおだまき 繰り返し 昔を今に なすよしもがな
と、義経を慕う歌をうたいながら舞ったのです。平家追討では最高の武勲を立てた自分の恋人・義経は、今は兄の頼朝に追われて奥州にいる。それを悲しみ、切々たる追慕の気持ちを示したのです。
頼朝は、謀反人を慕う歌を聞かされて、烈火のごとく怒ります。すると、隣りにいた政子が、
「女の道というのはそういうものです。静が判官殿(義経)を慕いますのは、その昔、あなたが石橋山で敗北なされてから、あなたのあとを慕って、私が方々で苦労したのと同じことです。ですから、どうぞ静を許してやってください」
と取りなしたのです。頼朝は、「なるほど、女の道とはそうあるべきものか」と感心して、静に褒美を与えたといいます。