「海外帰国子女」
日本は自由世界でGNPが第二位、貿易黒字も膨大になり、経済的にも政治的にも極めて重要な国家になりつつある。最近は国際関係が非常に複雑になり、国際的に通用する人材、いわゆる「国際人」の重要性が叫ばれている。「国際人」の素質を持つためには、自分の国のことをよく知る必要があるばかりではなく、外国の文化、社会、歴史、習慣などにも精通していなければならない。その可能性を充分に持っているのが「海外帰国子女」である。最近海外諸国で仕事に従事する日本人が増加するにつれて、海外帰国子女の数が大幅に増えている。彼等は、ますます国際化していく社会において、将来日本の繁栄の鍵になるべき貴重な存在である。ところが、彼等は海外生活を終え帰国すると、さまざまな深刻な問題に直面しなければならず、それが現在日本で大きな社会問題になっている。
勉強の面を見ると、二つ大きな問題がある。一つは、勉強の大変さである。外国で長期間教育を受けた子供は当然日本語の能力が低い。外国滞在中、たとえ家で両親と日本語を使い会話が何とかできるとしても、漢字の勉強までは充分にできない、というのが大多数であろう。漢字が弱いと、国語だけではなく、理科、社会、算数などほかの学科の教科書を読むのも難しくなる。本来なら帰国子女のための特別な学校に行き、弱いところを補ってもらうのが最善だが、そのような学校はまだまだ稀である。そこで、普通の子供より人一倍努力しなくてはならない。
二つ目は、外国語の問題である。普通帰国子女は英語、ドイツ語、フランス語など国際的に通用する外国語が上達して帰国する。帰国後も習った外国語を伸ばせるような教育制度があれば将来大人になった時非常に有利である。しかし、現実は全く逆である。習得した外国語が伸びるどころか駄目になってしまうほうが多い。日本の外国語教育は今でも文法を重視し、クラスの時間の半分以上が文法の説明に使われている。読み書きができ、意味がわかり、きれいな発音で自分の意見が述べられればそんなに細かい文法など知らなくてもいいはずなのに、難解な複雑な文法を覚えさせられる。また、ネイティブスピーカーと同じようなきれいな発音で発言すると、同級生にひやかされたりするので、わざと日本的な発音に直す子供すらいる。そのため、授業がつまらなくなり、興味を失うことがよくある。
勉強に劣らぬほど帰国子女を悩ますのは同級生からの「いじめ」である。日本では小さい時からいつも皆で一緒に何かをするようにしつけられ、「集団の和」ということを教え込まれる。一人の独立した個人よりも集団の一員としての個人のほうが大事であると教えられる。そこで、ほかの子供と異なり何らかの点で目立つ子供は集団から浮き上がり、「いじめ」の対象になる。帰国子女はいろいろな点で普通の子供と違うので格好の「いじめ」の対象になる。
まず、欧米諸国の教育を受けた子供は、自己主張できるように、つまり、自分の意見をはっきり述べられるように教育される。自分は他人と異なり、自分独自の考えを持っているということを言うように強くしつけられる。帰国して今までの習慣をすぐ捨てるということは不可能なので、当然クラスで欧米式に自己主張する。しかし、そうすると同級生に「あいつは自分のことばかり言っている」「生意気だ」「目立ちたがり屋だ」と思われてしまい、いじめられてしまう。
また、帰国子女の多くは、強い個性を持ち、特技やほかの日本人の子供たちができないようなことができたりする。それらはヨーロッパやアメリカでは素晴らしいこと、伸ばすべき特徴として尊重されるが、クラス全体のレベルを上げることにより注意を払う日本の学校ではあまり重点を置かれない。それらは、帰国子女が外国の習慣や生活のしかたを通して身につけた生活態度と共にむしろ「いじめ」の対象となりやすい。
しかし、何と言っても最も大きい障害は、日本人に特有な「よそ者」を受けつけない体質であろう。日本人は自分のグループの人間には親密な仲間意識を持つが、そうでない人間に対しては「よそ者」として扱い、なかなか自分の仲間に入れようとしない。「よそ者」から仲間にしてもらうためには、その集団の習慣・しきたりに合わせ、皆と同じように行動することを期待され、多大の努力を払う必要がある。子供達も小さい頃からその体質を身につけ、帰国子女を「よそ者」と見なし、自分の仲間として受け入れようとしない。そのため、何とか仲間に入れてもらうべく、帰国子女は必死の努力をしなければならないのである。
帰国子女の問題は、単に勉強やいじめの問題だけではない。教育制度や、もっと根本的な日本人の国民性の問題と関連している。この問題の解決策の一つとして、「集団の和」を保ちながら一人一人の個性を伸ばせるような教育制度の確立や「出るくいは打たれる」ということわざに見られるような集団からはみ出した人間を疎外するような国民性の変化が望まれる。日本が将来国家として繁栄していくためには、国際的な視野を持って活躍する人間が多く必要で、その可能性を持った「海外帰国子女」は貴重な存在であるから、この問題は早急に解決されなければならない。
☆ 次の質問に答えなさい。
1.海外帰国子女が直面する二つの勉強の問題について簡単に説明しなさい。
a.
b.
2.海外帰国子女がいじめられる理由について簡単に説明しなさい。
a.
b.
c.
3.日本人に特有な体質と海外帰国子女の関係について簡単にまとめなさい。