16. 教室は誰のものか
皆さんの周りにある椅子や机、あるいは教室自体は、誰のものでしょう。正解は一般には学校のものということになります。学校法人の財産です。ですから皆さんは、入学したことによって、それを借りて、その使用を許されたということになる。しかしそれはそうかも知れませんが、そう考えないほうがよいのです。机や椅子は誰のものでしょうか。自分のものです。黒板や窓や、教室も全部自分のものです。だから自分で処分してよいのです。どうぞそうして下さい。人のものにするか、自分のものにするかで、気持ちがたいへん変わってきます。まず机、椅子、教室全体に対する距離、親しみが違ってきます。この大学にきて我々は借り物を使って勉強しているのではありません。自分のもので勉強しているのです。
隣にいる学生は、誰でしょう。他人です。他人ですから、場合によっては用心しなくてはならないかも知れません。実際、胡散臭い奴が隣にいると思って座っている人もいるでしょう。しかしそうではなくて、隣にいるのは兄弟、姉妹なのだ、と考えれば、親しみが湧いて、用心しなくてよいから、気が楽になります。
大学はわが家の居間です。そういった気持ちで教室に座り、大学で過ごしたらよいのです。大学生活がすっかり変わってくるはずです。
そもそも大学とは何でしょう。自分の外に自分より前からある1つの組織だと考えているでしょう。ですから入学試験を通って、外からそれに参加させてもらうのです。しかし、もともと大学の発生は、人間が何人か集まっていわば組合を作り、そして望む講師を呼んで教えてもらうというものでした。学生があってそれから学校が成立したわけです。だから、学校とは学生そのものなのです。学生のほかに大学はどこを探してもありません。今は、それが逆転して、大学という組織が先にあって、学生はあとからくることになってしまいました。それは社会生活の便宜上、仕方がないにせよ、精神だけはもとに戻って、自分が即、大学だ、大学とは俺のことだと思って出発して下さい。大学は自分とは別で、嫌々ながら関係しているのだとすると、大学生活も雑になりますが、大学とは自分のことだとすれば大学生活はもっと充実するはずです。