17. ある部員の話
ある大学に野球部がありました。名門野球部です。ある男が入学して、入部しました。まず入部届けを出して、部費を払います。次の日から道具を持って球場に通います。一日も休みません。折々のコンパにも出席して愉快にやります。4年経って、野球部にいたことが有利に働いていい会社に就職が決まり、無事卒業しました。部のOB会名簿にも掲載されましたから、立派な野球部OBです。ただこの男の奇妙な点は、毎日球場に行きましたが、いつも隅のベンチに座ってグランドを眺めているだけで、体を動かしませんでした。だからほかの部員に比べたら、ひょろひょろして体力も技術もありません。
さて、ところでこの男ははたして野球部員なのでしょうか。確かに、部費も欠かさず払っていますし、名簿に載っていますから、野球部員です。しかし練習には参加しませんでした。
これと同様に、次のような大学生は、大学生でしょうか。つまり、学費をきちんと払い込みました。授業には毎回出席しました。何回か代返(だいへん)を頼みましたが、それも帳簿上は出席になっています。出席したときはいつも、友達と喋っていたり、ぼんやりしていたり、その授業に関係ない本を読んだり、関係ない作業をしていたりしました。それでも試験の時は、ノートを借りたり、昨年の問題を暗記したりして、結構いい点で通りました。大学の世話で就職し、卒業し、同窓会名簿に載りました。しかし彼は授業に出席はしていたものの、いわば授業には参加していなかったわけです。こういう人は大学生といえるでしょうか。しかし現実には、こういった大学生もどきが多いのです。
別の男は、大学に入って、授業に毎回出席し、講義をよく聞き、ノートをとって、授業とともに考え、予習し、復習し、いわばしっかり授業に参加しました。しかし卒業間近になって、もうすべて学ぶべきことは学んだからといって、大学をやめました。したがって卒業生名簿に載りませんでした。この人は、大学生は卒業しなかったわけです。しかし実質的には、この人のほうが大学生だったのではないでしょうか。
名目と実質という問題です。