22. ミルクを飲む人より、運ぶ人のほうが健康になる
イギリスのことわざだそうです。
牛乳は健康によい食品です。それを定期的に飲む人は健康になります。しかしそのためには、その牛乳を毎日家まで運んでくれる、牛乳配達がいます。自転車で、あるいは自転車を降りて戸口までの坂道を駈け登ってくる人です。その人は、暑い寒いに関わらず、いつも身体を動かしているから丈夫になる、そして、飲む人以上に健康になります。
裏方の仕事も、目立たない仕事も、単にほかの目的のための手段に過ぎないのでなく、必ず報いられるようになっている。従属的で馬鹿らしいと思わずに、こつこつこなしていけば、時がたつと、それ自体が大したものになっている、そういうことです。
かつて、私は、ある人に、「この頃は、雑用ばかりやらされて、嫌になってしまう」と嘆いたら、「世の中に雑用はない。すべては本来の仕事である」と諭されたことがありますが、その通りで、仕事に雑と本はないのです。ある仕事は別の仕事の下請けで、その手段であるから価値が低い、というものではないのです。全ての仕事は平等で、その仕事自体のなかに目的が入っていて、みな互いに役にたっているのです。そのように考えれば、どんな仕事も、おろそかにせずに打ち込むことが出来ます。
ただ、現時の世の中は、そのようになっていません。職業には貴賎があり、あるいは、貴賎と言わないまでも割のよいものとそうでないものがあり、報酬も大いに違います。しかし、このように、仕事を序列化させて、その優劣を競う(特に報酬において)というのではなく、全体のなかでそれぞれの仕事の役割を平等に問う、そして、どの仕事においてでも、意欲を持ち、勤勉に働く人が、それなりに報いられる社会が、あって欲しい社会といえましょう。
その意味で、ミルクを飲む人よりも、運ぶ人が本当に健康になるとすれば、してやったりという事でしょう。