26. 人に頼るな?
大学生の自殺というのが、時々あります。まわりの状況が物理的に切羽詰まっている、例えば、多額の借金に追われてどうしようもない、病気で治らない、というのはある程度仕方がないとして、そのなかには、心持ちの問題として、ひとりで自分を追いつめてしまった、人にちょっと相談すれば道が開けたのに、そうしなかったというのがあって、ある意味で残念なことです。
なぜ人に相談しないのか、そういう人にはむしろまじめな人が多いのですが、おそらく、人に頼らない、自分だけでやっていく、人に迷惑をかけないというのが、世間一般に美徳とされてきたことに、原因があるのではないでしょうか。
世の中には、無神経に、のべつ他人に迷惑をかける者もいます。しかし、多くの人が、なぜ人に迷惑をかけないように過度にかたくなになるかというと、突き詰めると、その裏には、人から迷惑をかけられたくない、自分も迷惑をかけない代わりに、人も自分に迷惑をかけて欲しくない、そのための予防線のようなところがあるのではないでしょうか。
こういった考え方は、まさに近代の個人主義に由来するもので、そこでは、孤立した独立した個人が究極の単位になっていて、それがしっかり確立されていることが、人間のあるいは社会生活のあるべき姿とされるわけです。そこには人と人との本質的なつながりが避けられていて、人間が孤立してとらえられています。この孤立性が極端になると、他人はすべて競争相手で、日々が勝負だと言うことになります。現在の状況は多かれ少なかれ、そのようになっているのかもしれません。
しかし、人間が共同生活をしている以上、厳密な意味で、我々は人に迷惑をかけずには生きられません。人に迷惑をかけていいのです。人に相談してよいのです。ただ当然人からの迷惑も受け入れる気持ちがなければなりません。迷惑をかけたりかけられたりする、そこに孤立した人間観からは得られない、人間同士のつながりが展開してきます。人と人との間に窓が開くのです。