英国のバラ
最近は日本でもガーデニング(Gardening)という名の庭仕事が流行っていて、英国式の庭(English Garden)もずいぶんポピュラー(popular)である。こちらでは庭は一つの財産であり、有料で見学させたり、日時を決めて一般公開することも多い。
英国式の庭は、あまりかっちりと整形しないように思う。テレビや写真で見るベルサイユ宮殿の庭のように、噴水があってその周りに刈り込んだ植え込みが幾何学的に配置されている、といったようなものではない。秩序よりもむしろ野趣を尊ぶようである。ハンギングバスケット(hangingbasket)に代表されるように、いわばごた混ぜに植わっていることが多い。これは昔イギリスが植民地から多くの植物を持ち帰ったことに由来するという。とりあえず植えてみた中から風土に合ったものが残ったということになる。
このため、庭には実に多くの種類の花が咲くのだが、この時期もっとも見事なのはバラである。日本ではあまりバラを普通の家で見かけたことはない。虫がつきやすいとか、育てるのが難しいとか聞いたことがあるが。バラはよほど英国の風土に合うらしく、さして手入れをしているとも思われないのに美しい花を次々と咲かせている。ダイアナ元妃がなくなったとき、エルトン?ジョンが「さよなら、英国のバラ」と歌ったが、さもありなんと思わせる。
庭に植えてあるバラは、花屋で売っているような真っ直ぐな茎をもったものではなく蔓性で、それが古い石壁をつたって戸口を飾っていたり、低い植え込みになっていたりするさまは、夢のように美しい光景で、幼い頃に読んだ「不思議の国のアリス」を彷彿とさせる。今にもトランプの女王がでてきそうである。花の形もなじみのある幾重にもなったものから、一重のものまで、色も大きさもさまざまである。大輪で一重のものは、椿がバラ科だったことをなるほどと納得させるし、幾種類もが植え込みになったバラは、少し離れて見るとそれ自体が大きなバラの花束のようである。
前にも述べたように、私は英国の企業であるローラアシュレイが好きで、洋服を始めいろいろなものをもっている。ここの製品の特徴は、さまざまな花をモチーフにしたロマンティックな柄なのだが、この土地でさまざまな植物をみていると、ローラアシュレイが生み出されたのがよくわかる。庭に植わったバラから、野に咲く小さな草花まで、モチーフになっている花は本当に実在するのである。
余談だが、今住んでいるところから歩いて十分のところにローラアシュレイの店舗がある。店の奥のほうには季節外れや半端ものになったものを安く売っているコーナーがあって、大体定価の20%OFFである。さぞ毎日楽しいことだろうと思われるが、実はそうでもない。合うサイズがないのである。日本で売っているものはほとんど日本人向けに作り直したものなのだ。ここでは大きいサイズは果てしなくあるのだが、小さいサイズは一番小さいサイズが日本でいう9号である。しかも9号といっても丈が長めな気がする。イギリス人でも背の低い人はたくさんいるのに、そこらへんはかたくならしい。しかし背の高いイギリス人がローラアシュレイを纏った姿はさすがで、つくづくアングロサクソンのために作られた服なのだな、と感心する。ローラアシュレイにかぎらず思うのは、「日本人は洋服を着ちゃいかん」ということである。「洋服」とあるからにはやはり西洋人のためのものなのだ。
庭も同じである。日本でいくらイングリッシュガーデンをとりいれたとしても、この空気、この気候、この風土があってこそ成り立った庭であって、形だけもってきても、魂が入っていないというか、どこかちぐはぐで借り物のようである。
やはり英国にはEnglish garden、日本には日本庭園である。