暇なのをいいことに
久し振りに日中がぽっかり空いたので、荷造り(船便)とページの更新でもするかと思いつつ、 朝一番で街に出て用事を済ませた。
少し買い物をしたりアートショップを冷やかしたりして、 戻って荷物を置いて一息いれる。 紅茶をいれて、そのまま暇なのをいいことにボーッとWebでダウンロードしたものを読んだりしたあと、 思い立ってロンドンにある日系の旅行会社に電話をする。
今度両親が遊びに来るので呼び寄せチケットを先日予約したのだ。 支払方法を尋ねると「請求書をお送りしますので」という話だった。 が、「請求書」が来たものの 書かれているのは便名と金額の明細だけで、支払方法はおろか銀行口座番号も小切手の受取人名も 明記されていなかったのだ。これでは支払いたくても支払えない。
問い合わせの電話を入れたつもりだったのだが、 担当者は会議中で、代わりに出た他の女性の説明がこれまたさっぱり要領を得ない。そのうちだんだん腹立たしくなってきた。支払方法は分かったが暇なのをいいことについついクレームをつけてしまう。
日本語だと饒舌になるものだ。
大体、請求書を送られたらこちらから支払方法を問い合わせないと支払えないなんて、馬鹿げていると思わないかと言うと、電話に出た女性も「はぁ、確かにそうですよねぇ。日本じゃ普通請求書には口座とか書いてありますよねぇ」 などという。
この人達は航空券の購入は社内でするのだろう。こういうことには気づかないものらしい。
そもそもの請求書を送った担当者が代って電話口に出る。開口一番 「ご迷惑をおかけしておりますが、コンピュータのシステムが最近変ったもので…」「なにぶんそういう風にシステムがなってないものですから…」などと謝ってくるので、それなら手書きのメモ一枚入れればすむ話でしょう、と一蹴する。 第一そんなことの理由にされるコンピュータこそ可哀相である。
電話を切ると、心も身体も寒くなっている。後味が悪いのだ。
暖房を入れて、暇なのをいいことにお風呂に入ると、またしても途中でお湯が出なくなる。そういえば昨夜お風呂でお湯を使ったあと、ずっとセントラルヒーティングを入れてなかったのでお湯がないのだ。 ああ、瞬間湯沸かし器が恋しい。仕方なくぬるいお湯につかってそのままベッドに潜り込む。それからしばらく、暇なのをいいことに惰眠を貪り、お湯が沸いたのを見計らって暇なのをいいことに再度お風呂に入る。
それからまた暇なのをいいことにWebを読みながら、朝買っておいたサンドイッチを冷蔵庫にあった残りのジュースで流し込む。私は一人で暮らしていたら間違いなく身体を壊すタイプだ。
Webに熱中していると、キッチンの窓をノックする音がする。顔を上げると満面の笑顔で手を振っている男性がいる。派手な蛍光黄色のウィンドブレーカーを着ている。警察官だ。
こちらでは、郵便配達人や警察官など外回りの公職の人はみんなこのような派手な色を身につけている。市役所の人も個別訪問の際は蛍光色のウィンドブレーカーを着て現れた。不思議と警戒心がわかないものである。庭に回ろうとしていたらしい警察官は、玄関を開けてくれと身振りで示し、ドアを開けた私に笑顔で早口で何か言う。無線連絡の声が行き交っている。婦人警官の姿も外に見える。緊迫したムードだ。「泥棒」といった気がするが、もう一度ゆっくり言ってくれと頼むと「ごめん」というように苦笑して、
「ええと、先ほどわれわれが取り逃がした若い泥棒が付近に隠れている可能性があります。それで今庭をチェックしようとしたんですが、あなた、彼を見ませんでしたか?」
「え?あ、いえ、まだ見てません。」
「そうですか。彼はクリーム色のシャツを着てます。すごく寒そうですけど。」
といってお茶目に笑う。笑っている場合ではないのだが、思わずこちらも笑ってしまう。
「というわけで、ちょっと庭を見ていいですか?」
無論異存はない。庭をざっと見て警察官は帰っていった。隣家のドアをドンドンと叩く音が聞こえる。
やれやれまた泥棒騒ぎか。
警察官の笑顔の名残で私の顔にも笑みが残っていたが、それどころではない。さっきまで無防備にいた自分を思い出してぞっとする。もしかしたらあの鍵のかかっていない物置に潜伏しているかもしれない。見に行ってみるか、いやいや恐ろしくて確認に行けるわけもない。せめてもと庭に面したカーテンを閉めた。窓に施錠はしてあるし考えても仕方がない。
気を紛らわすために今の出来事を掲示板に書き込もうとして、エディタを立ち上げたら暇なのをいいことに文章が長くなってしまった。よって本文としてアップすることにする。
というわけで本来書こうとしていたものはまだ書けてないし、荷造りもできていない。でかけるつもりだったのがその気も失せた。こういう時は家でじっとしているのがいい。