昔昔あるところにとても仲のいい夫婦がありました。この夫婦の悩みはなかなか子供ができないことでした。夫婦は「子供を授けてください」と毎日神様にお祈りしてました。
その祈りが通じたのか、男の子が生まれました。ところがその子はとても小さく一寸(3センチ)ほどの背丈でした。夫婦は一寸法師と名づけ、いずれ大きくなるだろうとご飯をたくさん食べさせ、気長に育てました。
ところが何年しても一寸法師は一寸のまます。夫婦はさすがに心配になってきました。でも一寸法師は平気です。体は一寸だが、自分には勇気と知恵がある。きっと何かできるはずだと、いつもワクワクしていました。
そしてとうとう一寸法師は「都へ行って武士になります」と言い出し、家を出ます。
一寸法師はお椀の舟に乗り、箸を櫂に、針を刀にして川を下っていきます。両親と別れることはさびしかったですが、初めて見る都というものに心は躍っていました。
都に着いた一寸法師は驚きます。沢山の人、きらびやかな衣装、市場の賑わい、…話に聞いて想像してはいたものの、それ以上でした。
一寸法師は見渡したところ一番大きな館を選び、その門を叩きます。
「私は一寸法師といいます。武士になるため都に来ました。どうかこちらのお館に仕えさせてください」
「ん?今声をかけたのはお前か。ずいぶん小さいな」「体は小さいですが、勇気と知恵は負けません」「威勢のいいやつじゃ。お館さまにとりついでやろう」
こうして一寸法師は館で住まうことになりました。毎日の薪割りや掃除、読み書き、そろばんなどの学問…一寸法師はよく働き、よく学びました。
そんな一寸法師を館の人たちも大好きになり、姿を見かけては「よお一寸法師」「精が出るなあ一寸法師」と声をかけました。
中でも館のお姫さまは時々お菓子をくれたり、一寸法師を大変可愛がってくれました。
そんなある日、お姫さまが観音さまにお参り行くというので一寸法師もお供をすることになりました。
帰り道、急にあたりが暗くなったと思うと、大きな赤鬼、青鬼が道をふさぎます。食べちゃうぞという感じです。
一寸法師は迷わず飛び出します。「おのれ、姫さまに手出しはさせん」鬼はせせら笑います。「なんじゃ、こんなチビがえらそうに。踏んづけてくれるわ」グワーと足が出ると、一寸法師は飛びのきます。
そして膝から腹へ、腕へとぴょんぴょん跳びはねていって、針の刀で赤鬼の目をつきさします。
「ぐぎゃあああ」赤鬼がひるんだ間に頭にきた青鬼が「おのれナメたマネを」一寸法師をグワッと鷲づかみにし、「生意気なチビめ」口の中にほりこみました。
「ああっ、一寸法師…!」絶望の声を上げるお姫さま。ところがしばらくすると、鬼の様子が変です。「あいたたた」腹を抱えこんで、しきりに苦しんでいます。
「この、鬼め。一寸法師がある限り、姫さまに、手出しはッ、さァよせないのだァ。思い知ったか」
腹の中で一寸法師が暴れ狂ってるのでした。
「ま…まいりました。もう悪いことは、しません」
一寸法師は鬼があやまるのを聞くと、鬼の口から飛び出しました。
鬼は迷惑をかけたお詫びにと打出の小槌というものをくれて、逃げていきました。これを振ると何でも願いがかなうということです。
一寸法師はお姫さまに頼んで、「大きくなぁれ」と言って打出の小槌を振ってもらいました。
すると一寸法師はぐんぐん大きくなって、大喜び。その後お姫さまと結婚し立派な武士になったということです。