むかしむかし、ずーっとむかしのむかし話だよ。
ある村に、働き者じゃが、貧しい暮らしをしている男がおりました。
「ああーっ、腹へったなー。腹いっぱい飯食ってみてえなあ~」
いつも腹をすかせている男の見る夢は、食べる夢ばっかりだった。
ある晩のこと、男は真に不思議な夢を見た。
荒地の果てからやってきた、白い一頭の馬。
馬は光に包まれ、まぶしいほどの白さじゃった
馬は、ずっしりとよく実った金色のアワの穂を、美味しそうに食べている。
じっと見つめていると、白い馬は急に首を振った。
口元からポーイと飛んだアワの穂は、空中でクルクルと舞ってキラキラ金色に輝きながら、男の前に落ちてきた。
「あっ、夢か、夢! 何という夢じゃ。金のアワ。それに神々しい白い馬、神さまが現れたあの荒地は」
夢から醒めた男は、あの白い馬が立っていた荒地は、自分が一度行ったことのある場所だと気付いた。
朝が来るのを待ってさっそく出かけ、見覚えのある、その荒地にたどり着いた。
「ここだ、間違いない。夢の場所とおなじだ。・・・あっ!」
驚いたことに、荒地の果てからアワの穂をくわえた夢で見た白い馬が、男に向かって歩いてきた。
そしてくわえていた、その金のアワの穂を男に渡した。
「ああ、ありがたい。きっとこれは、この荒地を耕して、アワをうえなさいという、神さまのお告げにちがいない」
男はそう信じて、そこの荒地を耕しはじめた
春を待って、種をまき。
夏、照りつけるお日様。
畑に這いつくばって、せっせと草を取った。
秋になると、男の植えたアワの穂は重く実り、あたり一面金色に輝いて波打った。
大豊作だ。
それを売りさばいた男は、たちまち大金持ちとなって「アワの長者」と呼ばれた。
それから何年か経ったある年。
村はまた、ひどい飢饅にみまわれた。
これまでにない厳しい寒波が襲って、子供たちは腹を空かして寒さにおびえ、泣きわめいた。
村の者は集まって、相談した。
「アワの長者さまに、おねがいしてみるか」
「そうだそうだ、あそこの蔵には、山ほどアワでもなんでも仕舞い込んである。むかしはわしらと同じ貧乏だった長者さまだ。助けてくれるに違いない。」
そう話がまとまると、皆して長者さまのお屋敷に詰め掛けた。
散々頭下げてお願いすると、それまで黙って聞いていた長者さまは一言大声を出した。
「うるさい! 聞きとうない! アワは一粒もない! 無断で蔵を開けたら、アワが無くて泡食うぞ! わかったか! さっさと出て行け!」
皆が帰った、その夜のこと。
「こら、人の屋敷の土壁に何ということをする!」
村の衆は、壁から、床下から、所かまわず、隠し込んだアワをガリガリこさぎだした。
長者は、村の衆がやることは高がしれてるとたかくくって眠り込んだ。
カリカリカリ、カリカリカリ
音は、蔵から聞こえてきた。
「なんじゃ、なんじゃ、村の盗人だな!」
「あわわわわああ!」
長者は気を失って、へたり込んでしまった。
カリカリカリ、カリカリカリ
忙しくアワを食べていた何万匹ものネズミたちが、急に静かになったと思うと、いきなり、どっーと音を立てて、
蔵も御殿のようなお屋敷も、もろとも崩れ落ちた。
立ち上る土煙が収まると、廃墟となった広場に何万というネズミたちが、ひとかたまりに集まった。
そうして光に包まれ、金色のアワの穂をくわえた白い馬が姿を現した。
やがて白い馬は、前足をそろえ、蹴るように高く上げると、ゆっくりと空へ駆けのぼっていった。
「ああっ、あの白い馬、夢の中の神さまの馬だ。」
人の苦しみをかえりみなかった長者は、全てをなくして、やっと自分の愚かさに気付いた。
「泡食った長者」は改心して、皆と残ったアワを分けあった。
それからというもの男は、村の皆とせっせと荒地を耕し、助け合って仲良く暮らしたんだと。
めでたし、めでたし。