むかしむかし、足の速いのがじまんのキツネがいました。
あるとき、このキツネがタニシにいいました。
「ちょっと都(みやこ)まで、いってきたんじゃ」
キツネは足のおそいタニシを、いつもバカにしています。
「都までは遠いから、足のおそいタニシなんかには、ぜったいにいけんところじゃな」
タニシはキツネがじまんばかりしているので、ちょっとからかってやろうと思いました。
「キツネさん、そんなに足が速いのなら、わたしと都まで競走(きょうそう)しませんか?」
「ギャハハハハハハー! タニシがどうやって、あんな遠くまでいけるんじゃい」
「キツネさんにいけるなら、わたしにだっていけます。だいたいキツネさんは、わたしよりはやく歩けるのですか?」
「なに! わしのほうが速いにきまっとる!」
はじめはバカにしていたキツネも、だんだんおこってきました。
「よーし、そんなにいうのなら、わしとどっちが早く都へつくか、競走じゃ!」
こうして、キツネとタニシの競走がはじまりました。
「よーい、ドン!」
キツネは、ドンドン歩きはじめました。
ふりかえってみると、タニシはもう見えません。
「まったく、わしが勝つにきまっているのに。ほら、もう見えなくなっちまった。バカバカしい」
キツネはバカらしくなって、ちょいとひと休みです。
すると、タニシの声がしました。
「おや? もう疲れたのかい、キツネさん。それではお先にいきますよ」
キツネはビックリ。
遠くヘおいてきたと思ったタニシが、すぐそばにいるではありませんか。
「おかしい。おいつかれるはずは、ないんじゃが・・・」
キツネはふしぎに思いながらも、また歩きはじめました。
そのうちに、山に夕日がしずみはじめました。
キツネはまたまた、バカバカしくなってきました。
「タニシなんかと早歩き競走したって、なんにもならんわ。わしが勝つにきまってるんだから。それに、本当のこというと、都なんかいったこともないし。・・・だいぶ遠いんじゃろな」
キツネは立ち止まって、おしっこをしようとしました。
すると目の前に、タニシがいます。
「キツネさん、早くしないとおくれますよ。わたしについておいで」
「そんなバカな!」
キツネは信じられません。
でも、タニシはそこにいます。
キツネは気持ちわるくなって、むちゅうで走りだしました。
本当は、タニシはキツネのしっぽにつかまって、やってきたのでした。
そうとは知らないキツネは、負けたくないので、ひっしで走りつづけました。
そのうちに、疲れてフラフラです。
するとまた、タニシの声が。
「キツネさん、そんなことでは、おいこしてしまいますよ」
おどろいたキツネは、また、むちゅうで走りつづけました。
そして、都への道しるべまでくると、とうとうへたりこんで、
「やっとついた。タニシに勝ったぞ! ふうっ、疲れた・・・。そうとも、キツネがタニシに負けるはずはないんじゃ」
ホッとしたキツネの耳に、また、タニシの声が。
「キツネさん!」
キツネはキョロキョロと、あたりを見まわしました。
「ここですよ、キツネさん」
タニシが、都への道しるべの上にいます。
「おそいな。いまついたところかい? わたしはとっくについて、都見物をすませた後ですよ」
「そ、そんなばかな・・・」
それからというもの、キツネは足が速いことをじまんしなくなったそうです。