むかしむかし、百姓(ひゃくしょう)のおじいさんが、ウマをつれて、うたいながら山道をあるいていました。
♪こころたのしや
♪山坂ゆけば
♪ウマのすずまでこだまする
♪エーイソラ ホイホイ
すると向こうの方から、ズシンズシンと大きな足音をたてながら、大テングがやってきました。
その大テングの鼻ときたら、おじいさんの腕ほど長くて大きく、顔ときたら、ぬりたての神社のとりいより、まっ赤です。
大テングとおじいさんは、細い山道でぶつかりました。
「こら、じいさま。道をよけろっ!」
大きな声の大テングに、おじいさんは負けじと、
「よけろというたって、ここはおらが道じゃ。おまけに、おらこのとうり、ウマとふたり連れじゃ。おまえがよけろ」
と、大テングをにらみつけます。
「ヒヒ、ヒヒーン!」
ウマもないて、おじいさんの応援です。
「このじじいめ。つべこべぬかすと、つまんで食うてしまうぞー!」
「そうかい。おらもこの年、食われて死ぬのはこわくないが、おまえに食われる前に、ひとつ見たいもんがあるんじゃ」
「なんじゃい、それは」
「テングは、誰でも術というもんを使うそうじゃが、ほんとうかいのう」
「ワハハハハッ。わしはこれでも、テングの頭じゃ。術ぐらい使えんでなんとする」
「そうかい。テングいうもんは、どこのテングでも、天まで大きゅうなれるというが、おまえさまは、なれるかね」
「天まで大きゅうなる。そんなことができんで、どうなる」
「そうかのう。じゃあ、おらが食われる前に、ちょっくら見せてもらおうか。あの世への話のたねというもんじゃ」
「よし。よう見とれっ」
そこで大テングは、鼻を上にむけてゴォーーッと、息をすいこみました。
すると、グングングングン、大テングの背が伸びて、とうとう雲をつきぬけてしまいました。
そこでおじいさんはニヤリと笑い、いかにも感心したようにいいました。
「テング様、テング様。ようわかったから、もとにもどってくだされ」
すると大テングは、シューッと息をはいて、もとの大きさにもどりました。
「どうじゃ、じいさま。ビックリしたろう。さあ、食うてやるか」
と、手をのばす大テングに、おじいさんは、カラカラと笑って、
「そんなこと言うても、テング様が天まで大きゅうなるのは、どこのテング様でもやることでねえか。おまえ様は、さっきテングの頭と言うたが、いくら頭でも、小そうなるこたぁできまい」
「なにっ。わしは日本一のテングじゃ。大きゅうばかりなれて、小そうはなれん、そんなケチなテングじゃないわい。見とれ。いま見せてやるわ」
大テングはそう言うて、フーッと息をはき出しました。
するとドンドン小さくなっていって、おじいさんの小指ほどになってしまいました。
そこでおじいさんは、ヒョイと大テングを手のひらにのせて、
「よう。もっと小さく、もっと小さく。そうそう」
ついに大テングは、豆つぶのように小さくなってしまいました。
「かかったな」
おじいさんは大テングをつまむと、ポイと口の中ヘほうり込んで、ゴクンと飲みこんでしまいました。
そして、
♪そよらそよらと
♪たてがみなでて
♪ふくや春風里までも
♪エーソラ ホイホイ
うたいながらウマをひいて、家の方へ帰って行きました。