むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
そのきっちょむさんが、まだ子どもの頃のお話です。
ある秋のこと。
家の人はみんな仕事に出かけるので、きっちょむさんがひとりで留守番をすることになりました。
出かける前に、お父さんが言いました。
「きっちょむや、カキがもう食べられる。あした木から落とすから、今日は気をつけて見ていてくれ」
「はい。ちゃんと見ています」
きっちょむさんは、元気な声で返事をしました。
でも、食べられるカキがいっぱいあるのに、だまって見ているきっちょむさんではありません。
お父さんたちの姿が見えなくなると、さっそく村の中を走り回りました。
「おーい、うちのカキがもう食べられるぞ。みんな食べに来い」
これを聞いた村の子どもたちは、大喜びできっちょむさんの家にやってきました。
そして、長い棒でカキを落とすと、みんなでお腹いっぱい食べてしまったのです。
さて、夕方になってお父さんが家に戻ってくると、きっちょむさんは柿の木の下にすわっていました。
「おまえ、一日中、そうやっていたのか?」
「はい。だって、気をつけて見ていろと言うから、ジッと柿の木を見ていたんです」
「そうか。えらいぞ」
感心したお父さんが、ふと、柿の木を見上げてみると、カキの実がずいぶんとへっています。
「おや? カキの実がずいぶんへっているな。これは、誰かが取っていったに違いない。おい、きっちょむ、これはどうしたことだ?」
するときっちょむさんは、へいきな顔で言いました。
「はい、村の子どもたちが次々と来て、棒を使ってカキの実をもいでいきました。私は言われたとおり、気をつけて見ていたからまちがいありません」
「とほほ。・・・カキ泥棒が来ないよう、気をつけて見ていろと言ったのに」
お父さんはそう言って、ガックリと肩を落としました。