むかしむかし、おだんごを作るのが、とても上手なおばあさんがいました。
ある日の事、おばあさんがおだんごを作っていると、そのうちの一つが、コロコロコロと、転がり落ちて、外へ行ってしまいました。
「これこれ、おだんごよ、待ってくれ」
おだんごは、コロコロコロコロ転がって、道ばたの穴にストンと落ちました。
追っかけてきたおばあさんも、続いて穴の中にストンと落ちてしまいました。
穴の中は広い原っぱで、石のお地蔵さまが、たいくつそうに立っています。
「お地蔵さま、わたしのおだんごが、来なかったかの?」
「きた、きた。わしの前を通って、向こうの方へ、コロコロコロ」
「ありがとよ」
おばあさんが少し行くと、また、お地蔵さまが立っていました。
「そのおだんごなら、向こうの方へ、コロコロコロ」
おばあさんは教えられた通りに行くと、またお地蔵さまです。
「ああ、あのおだんごは食べたよ。とってもおいしかった。ごちそうさん」
「おんやまあ。お地蔵さまが食ベたのなら、まんず、よかんべ」
そのとき、ドスンドスンと、大きな足音が近づいてきました。
「おばあさんや、大変じゃ! 鬼どもが来るぞ! はよう、わしの後ろに隠れるがいい」
「ヘいへい、ありがとうさんで」
おばあさんは、お地蔵さまの後ろに隠れました。
やがて赤鬼と青鬼がやってきて、鼻をピクピク動かします。
「ふんふん、くさいぞ、人間くさい。・・・そこにいるな!」
おばあさんは、すぐにつかまってしまいました。
おばあさんを屋敷へ連れて帰った鬼が、しゃもじを一つ渡して言います。
「米粒を一つ、カマに入れて、水をいっぱいにしてたくんだ。煮えたら、このしゃもじでグルリとかき回す」
言われた通りにすると、お米はムクムクとふえて、まっ白なごはんがカマいっぱいになりました。
「あれまあ。なんて不思議な、しゃもじじゃろう」
おばあさんは毎日、せっせとごはんをたきました。
でも、家に帰りたくてしかたがありません。
そこである日、鬼どもが山ヘ遊びにいっているすきに、不思議なしゃもじを持って逃げ出しました。
まもなく、おばあさんの行くてに、大きな川が現れました。
けれども、都合のいい事に、舟が一そうつないであります。
おばあさんの乗った舟が、川のまん中あたりまでいったとき、鬼どもが岸まで追いかけてきました。
「おいみんな、水を飲んで舟を止めよう」
鬼どもは岸にならんで、川の水をガボガボと飲みはじめます。
水はドンドン少なくなって、舟はとうとう動かなくなってしまいました。
「困ったのう、どうすベえ。おお、そうじゃ」
おばあさんは、しゃもじを取り出し、舟の中でひょっとこ踊りをしました。
♪あっそれ、よいよい、すっとんとん。
その踊りがあまりにもおもしろいので、鬼どもは思わず、
「ワッハッハッハッ・・・」
とたんに飲んだ水が口からふきだして、流れ出た水のいきおいで舟は向こう岸につきました。
おばあさんは、お地蔵さまの原っぱを通って穴をよじ登り、どうにか家に帰ることができました。
さて、家に帰ったおばあさんが、このしゃもじでお米の粉をこねてみると、粉はドンドンふえて、ビックリするくらい大きなおだんごができました。
こうして、おだんご作りの上手なおばあさんは、不思議なしゃもじで、いつまでもいつまでも、おだんごを作ったということです。