むかしむかし、あるところに、どうにも貧乏な男がいました。
「人並みに暮らしたいなあ。・・・そうだ、観音様(かんのんさま)にお願いしてみよう」
男が村の観音様に通って、お参りを続けていると、ある晩、観音様が現れて、
「いいだろう。お前の願い、叶えてしんぜよう。夜が明けたらお宮の石段を降りていって、最初に見つけた物を拾い、それを大事にしなさい」
と、告げました。
やがて男が石段を降りて行くと、何か落ちています。
「ははん。これだな」
拾いあげると、それはカキのタネでした。
「何だ、こんな物か」
男は捨てようかと思いましたが、せっかくお告げをもらったのですから粗末に出来ません。
ありがたくおしいただくと、これは不思議。
カキのタネが男のひたいにピタッと張り付いて、取ろうにも取れません。
「まあいい、このままにしておこう」
すると間もなく、カキのタネから芽が出て来ました。
芽はズンズン伸びて、立派な木になりました。
男がたまげていると、カキの木は枝いっぱいに花をつけ、花が終わると鈴なりに実をつけました。
「うまそうだな。試しに食べてみよう」
男が食べてみると、甘いのなんの。
男はさっそく、町へカキを売りに行きました。
「頭にカキの木とは、珍しい」
「おれにもくれ」
「おれもだ」
カキは、飛ぶ様に売れました。
男はお金をふところにホクホク顔でしたが、面白くないのは町のカキ売りたちです。
「おれたちの商売を、よくも邪魔したな!」
男を囲んで袋叩きにすると、頭のカキの木を切り倒してしまいました。
「ああ、もう、金もうけ出来ない・・・」
男がしょげていると、切り倒されたカキの木の根元に、カキタケという、珍しいキノコが生えてきました。
おいしいキノコなので男が売りに行くと、これまた飛ぶ様に売れました。
面白くないのは、町のキノコ売りたちです。
「おれたちの商売が、あがったりだ!」
男を囲んで袋叩きにすると、カキの木の根元を引っこ抜いてしまいました。
男は、ガッカリです。
頭には、大きなくぼみが出来てしまいました。
やがてこのくぼみに雨がたまって、大きな池が出来ました。
「こうなったらいっその事、池に身投げをして死んでしまいたい」
男がなげいていると、頭の池でパチャンとはねるものがありました。
手に取ってみると、大きなコイです。
頭の池にはいつしか、コイやらフナやらナマズやらが育っていたのです。
男は頭の池の魚を売りに行って、またまたお金をもうけましたが、町の魚売りたちはあきれて、ポカンとながめているだけでした。