三月二十九日、東京・大阪両HIV 訴訟の和解が成立した。思えば、私が生まれて初めて、ニュースを見て涙を流したのは、この薬害エイズのものだった。
製薬会社「ミドリ十字」の幹部たちが、被害者の方々の前で土下座により謝罪をした光景は、今でも強烈に覚えている。私は、テレビ画面を食い入るように見ていた。そして、彼らの土下座のシーンで涙があふれだした。なにも、幹部たちをかわいそうだとか同情したわけではない。被害者の方々の深い怒りと苦しみが、痛いほど伝わってきたからである。
特に忘れられないのは、
「私の子供は、ずっと" コンコエイド"(ミドリ十字の非加熱製剤) でした。あの子は苦しみながら死んでいきました。あなたたちも同じ苦しみを味わうべきです。」
と涙ながらに訴える母親の姿である。国も製薬会社も一向に過ちを認めない中、長い間病気と闘い、差別や偏見に耐え忍んできた被害者たち。責任の追及と謝罪を求めて歩んできた先に、幹部の土下座という一応の決着があった。その姿を前にして涙を流す被害者の気持ちを考えると、なんともやるせない思いで、胸がいっぱいになった。
和解成立という待ち望んだ日にたどり着くことができたのは、国でも製薬会社でもない、被害者たちの努力によるものだ。これほど大きなあやまちにずっと目を背けてきた人達の存在を、私は許すことができない。良心が痛むということを知らないのだろうか。目先の利益にとらわれて、平気で罪を犯しつづけた彼らには、一生をかけて償う義務があると思う。それこそ土下座どころではすまされないのだ。
薬害エイズ問題を機に、改めて日本が、弱者や少数の人達に対して冷たい国だと感じた。住専の処理にしても、沖縄の米軍用地強制使用の問題にしても、結局は国民及び沖縄県民が被害に遭う方向へ動いていく。学歴社会で勝ち残った、政治家を代表とするいわゆるエリート達は、権力を悪用しているとしか思えない。彼らがそのような状態では、子供たちのいじめもなくなっていかないのではないだろうか。
HIV訴訟の和解成立後、菅直人厚相は
「この和解をスタートとして、恒久対策や真相究明についても引き続き努力していきたい。」
と述べた。この言葉の実現が、弱者に優しい日本につながることを期待したい。