むかしむかし、おじいさんの家の裏山に、一匹のタヌキが住んでいました。
タヌキは悪いタヌキで、おじいさんが畑で働いていますと、
「やーい、ヨボヨボじじい。ヨボヨボじじい」
と、悪口を言って、夜になるとおじいさんの畑からイモをぬすんでいくのです。
おじいさんはタヌキのいたずらにがまんできなくなり、畑にワナをしかけてタヌキをつかまえました。
そしてタヌキを家の天井につるすと、
「ばあさんや、こいつは性悪ダヌキだから、決してなわをほどいてはいけないよ」
と、言って、 そのまま畑仕事に出かけたのです。
おじいさんがいなくなると、タヌキは人のよいおばあさんに言いました。
「おばあさん、わたしは反省しています。もう悪い事はしません。つぐないに、おばあさんの肩をもんであげましょう」
「そんな事を言って、逃げるつもりなんだろう?」
「いえいえ。では、タヌキ秘伝(ひでん)の、まんじゅうを作ってあげましょう」
「秘伝のまんじゅう?」
「はい。とってもおいしいですし、一口食べれば十年は長生きできるのです。きっと、おじいさんが喜びますよ。もちろん、作りおわったら、また天井につるしてもかまいません」
「そうかい。おじいさんが長生きできるのかい」
おばあさんはタヌキに言われるまま、しばっていたなわをほどいてしまいました。
そのとたん、タヌキはおばあさんにおそいかかって、そばにあった棒(ぼう)でおばあさんを殴り殺したのです。
「ははーん。バカなババアめ、タヌキを信じるなんて」
タヌキはそう言って、裏山に逃げていきました。
しばらくして帰ってきたおじいさんは、倒れているおばあさんを見てビックリ。
「ばあさん! ばあさん! ・・・ああっ、なんて事だ」
おじいさんがオイオイと泣いていますと、心やさしいウサギがやってきました。
「おじいさん、どうしたのです?」
「タヌキが、タヌキのやつが、ばあさんをこんなにして、逃げてしまったんだ」
「ああ、あの悪いタヌキですね。おじいさん、わたしがおばあさんのかたきをとってあげます」
ウサギはタヌキをやっつける方法を考えると、タヌキをしばかりに誘いました。
「タヌキくん。山へしばかりに行かないかい?」
「それはいいな。よし、行こう」
さて、そのしばかりの帰り道、ウサギは火打ち石で『カチカチ』と、タヌキの背負っているしばに火を付けました。
「おや? ウサギさん、今の『カチカチ』と言う音はなんだい?」
「ああ、この山はカチカチ山さ。だからカチカチというのさ」
「ふーん」
しばらくすると、タヌキの背負っているしばが、『ボウボウ』と燃え始めました。
「おや? ウサギさん、この『ボウボウ』と言う音はなんだい?」
「ああ、この山はボウボウ山さ、だからボウボウというのさ」
「ふーん」
そのうちに、タヌキの背負ったしばは、大きく燃えだしました。
「なんだか、あついな。・・・あつい、あつい、助けてくれー!」
タヌキは背中に、大やけどをおいました。
次の日、ウサギはとうがらしをねって作った塗り薬をもって、タヌキの所へ行きました。
「タヌキくん、やけどの薬を持ってきたよ」
「薬とはありがたい。まったく、カチカチ山はひどい山だな。さあウサギさん、背中が痛くてたまらないんだ。はやくぬっておくれ」
「いいよ。背中をだしてくれ」
ウサギはタヌキの背中のやけどに、とうがらしの塗り薬をぬりました。
「うわーっ! いたい、いたい! この薬はとってもいたいよー!」
「がまんしなよ。よく効く薬は、痛いもんだ」
そう言ってウサギは、もっとぬりつけました。
「うぎゃーーーーっ!」
タヌキは痛さのあまり、気絶してしまいました。
さて、数日するとタヌキの背中が治ったので、ウサギはタヌキを釣りに誘いました。
「タヌキくん。舟をつくったから、海へ釣りに行こう」
「それはいいな。よし、行こう」
海に行きますと、二せきの舟がありました。
「タヌキくん、きみは茶色いから、こっちの舟だよ」
そう言ってウサギは、木でつくった舟に乗りました。
そしてタヌキは、泥でつくった茶色い舟に乗りました。
二せきの船は、どんどんと沖へ行きました。
「タヌキくん、どうだい? その舟の乗り心地は?」
「うん、いいよ。ウサギさん、舟をつくってくれてありがとう。・・・あれ、なんだか水がしみこんできたぞ」
泥で出来た舟が、だんだん水に溶けてきたのです。
「うわーっ、助けてくれ! 船が溶けていくよー!」
大あわてのタヌキに、ウサギが言いました。
「ざまあみろ、おばあさんを殺したバツだ」
やがてタヌキの泥舟は全部溶けてしまい、タヌキはそのまま海の底に沈んでしまいました。