むかしむかし、サルとキツネとウサギが、神さまのところへ行きました。
「神さま、どうかお願いです。こんど生まれてくる時は、人間にしてください」
すると、神さまが言いました。
「人間に生まれたいのなら、自分の食べ物を人間にごちそうすることだ」
そこでサルは山へ行き、クリやカキの実を取ってきました。
キツネは川へ行って、魚を捕まえてきました。
ところがウサギの食べ物は、やわらかい草です。
今は冬なので、やわらかい草は一本もありません。
(こまったなあ。どうしよう?)
ウサギはガッカリして、サルとキツネのいるところへ戻ってきました。
「ウサギさん、きみのごちそうはどうしたの?」
「だめだよ。草はかれているし、木のめは、まだ出ていないんだ」
すると、サルが言いました。
「それじゃウサギさんは、いつまでもウサギのままでいるんだな」
「そうだよ。ごちそうも持ってこないで人間に生まれかわりたいなんて、ウサギさんはずるいよ」
キツネも、怒って言いました。
「ごめん。でも、もう一日だけ待って」
次の日、ウサギは山へ行くと、かれ木をひろい集めてきました。
そしてサルとキツネの前に、かれ木をつみあげて言いました。
「今からごちそうを焼くから、火をつけておくれ」
サルとキツネが火をつけると、かれ木はパッと燃え上がりました。
「ぼくのごちそうはないんだ。だから、・・・だから、ぼくを人間に食べさせておくれ」
と、言うなり、ウサギは火の中に飛び込んだのです。
その時、空の上から神さまがおりてきて、さっとウサギを抱きかかえると、また空へのぼっていきました。
サルもキツネも、ビックリ。
すると、神さまが言いました。
「サルもキツネも、きっと人間に生まれかわれるだろう。
なにしろ自分の大切な食べ物を、人間にごちそうしようとしたからね。
それは、とても素晴らしい事だよ。
でもウサギは、もっと素晴らしい。
自分をすててまで、人間に食べさせようとしたのだからね。
ウサギをお月さまの国で、いつまでも幸せにしてあげよう」
神さまにだきかかえられて、ウサギは空高くのぼっていきました。
その時からウサギは、お月さまの中で楽しく暮らしているという事です。