むかしむかし、ある村の橋の下に、ほったて小屋で暮らしている母と息子がいました。
息子は毎日、少しばかりの塩を仕入れては、それを売り歩いていました。
ある年の暮れの事です。
息子が塩を仕入れて町からもどってくると、田んぼで殿さまが仕掛けたかすみアミにコウノトリがかかっていました。
「なんと、コウノトリじゃないか。年の暮れだというのに、かわいそうに」
息子は、コウノトリをはなしてやりました。
そして橋のところまで帰ってきたとき、土手(どて)の石につまずいて、塩をばらまいてしまったのです。
橋の下からそれを見ていた母親は、
「また、けつまずいたのか。ああ、塩がもったいない。あの石はあぶないから足元に気をつけろって、何度もいっておったのに」
と、あきれ顔でいいました。
これで、今日は仕事に行けません。
仕事に行けないので食べる物が買えず、母と息子はだまって、お湯ばかり飲んでいました。
ところがしばらくすると、ほったて小屋へ美しい娘がたずねてきたのです。
「おや? あんたみたいな美しい娘さんが、わしら貧乏人(びんぼうにん)に何の用だね?」
母親がたずねると、娘はまじめな顔で、
「はい。嫁にしてもらおうと思ってきました」
と、いうのです。
「な、なにをいう。うちには金も食う物もねえ。だから、お前のような娘を嫁にはもらえねえ。わるいが、帰っておくれ」
母親は断りましたが、
「お金なら、少しは持っております。お願いですから、嫁にしてください」
と、美しい娘は、ふところからお金を出しました。
「・・・しかし」
「お願いです。嫁にしてください」
「・・・だけれど」
「お願いです。嫁にしてください」
「・・・・・・」
母親は断り切れなくなって、娘を息子の嫁にしました。
すると次の日の朝早く、いかめしい侍(さむらい)たちがやってきました。
そして、殿さまが捕らえようとしていたコウノトリを逃がした罪として、十両(じゅうりょう→約七十万円)の罰金(ばっきん)を払わなければ息子の命はないと、きびしく言ってきたのです。
「お前がコウノトリを逃がしたなんて、知らんかった。なんという事をしたんじゃ。十両もの大金は、一生かかっても出来んぞ。ああ、どうしたらいいんじゃ」
嫁さんは泣き崩れる母親をなぐさめると、夫にむかっていいました。
「あなたが何度もつまずいて塩をばらまいた石を、どけてみなされ」
息子はすぐに土手の石のところへ走っていくと、土をほって石をどけてみました。
すると大きな石はふたになっていて、その下には大判小判がいっぱいうまっていたのです。
そのお金で、息子はすぐに罰金を払いました。
ところが晴れて息子の命がすくわれると、嫁さんは町へ買い物に行くといったまま、姿を消してしまったのです。
「あの娘は、お前が助けたコウノトリだったんだな。恩を返しに嫁にきたんだな」
母と息子は、うなずきあいました。
こうして大金持ちになったこの親子が、のちに大阪へ出てきて、
『難波(なにわ)の大長者(だいちょうじゃ)』
と、いわれた大商人、鴻池(こうのいけ)のはじまりになったという事です。