むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
以前、一休さんに『びょうぶのトラ』でとんち勝負をして、見事に負けたあの殿さまが、また一休さんをお城にまねきました。
「一休よ。よく来てくれたな」
「はい。およびとあれば、何度でも。して、今日はどの様な問題ですか?」
一休さんが聞くと、殿さまは笑いながら言いました。
「アハハハハハッ。
用心しておるな。
だが、安心せい。
今日はそなたに、ごちそうをしてやろうと呼んだだけじゃ」
そう言って殿さまは、一休さんに大変なごちそうを出しました。
「それ、えんりょせずに、好きなだけ食べるといい」
殿さまの言葉に、一休さんはお寺では食べてはいけない事になっている肉や魚をパクパクと食べました。
それを見た殿さまが、感心して言います。
「よく食べるのう。それにしても、何でも通るのどだ」
「はい。
わたしののどに、通らない物はありません。
言うなれば、東海道(とうかいどう→江戸から京都へつながる大きな道)の様なものです」
「よし!」
殿さまは、その答えを待っていたようです。
殿さまは刀を抜くと、怖い顔で一休さんに差し出しました。
「では、この刀を飲み込め!
何でも通ると、言ったのだ。
これが通らぬとは、言わせぬぞ!」
しかし一休さんは、平気です。
「はい、わかりました。刀を飲み込めば良いのですね」
「なに? 本当に、出来るのか?」
「先ほども言いましたが、わたしののどは、東海道の様な物ですから」
そう言って一休さんは刀を受け取ると、急にコンコンとせき込みました。
やがてせきがおさまると、殿さまに言いました。
「これは残念。
たった今、せきがとまりました。
せきも関所(せきしょ)も同じで、いったんとまりますと、何者も通してはくれません」
それを聞いた殿さまは、思わず手を叩きました。
「むっ! さすがは一休。今回もよの負けじゃ」
こうして一休さんは、またもやたくさんのほうびをもらいました。