むかしむかし、山にかこまれた、しょうじょう寺という小さなお寺がありました。
山にはタヌキがいっぱいいて、夜になると寺へやってきては、はらつづみを打ったり、あばれまわったりと、いたずらのしほうだい。
おかげで、この寺には和尚(おしょう)さんがいつかず、寺はあれほうだいです。
身分の高い和尚さんが、この寺の事を聞いて、
「よろしい、わしが行ってしんぜよう」
と、しょうじょう寺へやってきました。
「うむ、これは聞きしにまさるひどさじゃ」
あまりにもひどい寺のあれように、和尚さんはあきれ顔です。
なんまいだあ~
なんまいだあ~
本堂から、ひさしぶりにお経が聞こえてきました。
うら山のタヌキたちは顔を見あわせてニヤリと笑うと、さっそく、新しい和尚さんを追い出す相談をはじめました。
「おい、ポン太とポン子、いつものやつ、やってみろ!」
「へ~い!」
ドロンパッ!
ポン太とポン子は、なにやら姿をかえてしまいました。
「おう、みごとじゃ。はよういって、おどかしてこい」
「へ~い!」
そして、
なんまいだあ~
なんまいだあ~
と、お経をあげる和尚さんのうしろに、そうっと近づいたポン太は、ぬっと顔を出しました。
「ギャアーーーー!」
目の前に現れたのは、一つ目小僧です。
そこへ、美しい娘も現れて、
「和尚さん、お茶をどうぞ」
と、いいながら、首をニョロニョロとのばしてきたではありませんか。
「た、た、たすけてくれ~っ」
和尚さんは、寺の石段をころがるようにかけおりて、逃げ出してしまいました。
寺の庭に集まったタヌキたちは、大わらいしながら、とくいになってはらつづみを打ちました。
さて、次に現れたのは、力の強そうな、ごうけつ和尚でした。
和尚さんが寺につくと、さっそくタヌキたちはおどかしにかかりました。
ところが、一つ目小僧に化けたポン太は、頭をコツンとなぐられ、娘に化けたポン子が首をニョロニョロのばすと、首をねじまげられるしまつです。
「うえーん、いたいよう!」
二匹は、なきなき帰っていきました。
タヌキの親分は考えました。
「う~ん、あの和尚、なにに化けてもこわがらん。・・・そうだ、一晩中はらつづみを打ちつづけるんだ。そうすれば和尚のやつ、ねむれなくなって、まいっちまうぞ」
その夜、タヌキたちはいっせいにはらつづみを打ちはじめました。
ポンポコポンのポン!
ぐっすりねむっていた和尚は、さすがにその音で目をさましました。
むっくり起きあがって戸を開けると、
「こらっ! 庭であそんじゃいかん」
タヌキたちはすばやく逃げ出して、木のかげにかくれてしまいました。
「こらっ、待て! こらっ、逃げるな! タヌキたちのやつ、ばかにしやがって」
和尚は庭中、タヌキを追いかけまわしましたが、タヌキたちのすばやさには、とてもかないません。
そのうち石につまずいてころんで、目をまわしてしまいました。
こうして和尚は、またまた、タヌキたちにやられてしまったのです。
さて、その次に現れたのは、なんともきたない和尚さんでした。
この和尚さんは、きたないこの寺をすっかり気に入ってしまいました。
「おう、しずかでいい寺じゃ」
タヌキたちはさっそく、この新しい和尚さんを追い出す相談です。
いつものように、まず一つ目小僧のポン太が出ていきましたが。
「おう、これはかわいい一つ目小僧じゃ。そら、ダンゴでも食わんか?」
ポン太は和尚さんにダンゴをもらって、とことこ帰ってきました。
今度は、ポン子ねえさんです。
ところが、和尚さんは大よろこび。
「さあ、首の長いおねえさんも、一ぱいいこう」
と、ポン子にお酒を飲ませるしまつ。
タヌキの親分はおこりました。
「ようし、こうなったらあの手だ」
と、いうわけで、その夜、和尚さんがねついたころ。
ポンポコポンのポン!
物音で目をさました和尚さんが戸を開けると、タヌキたちがせいぞろいして、はらつづみを打っています。
「こりゃおもしろい。わしもなかまに入れてくれ」
ずいぶんとかわった和尚さんで、庭におりてくると、タヌキたちといっしょにはらつづみを打ちはじめました。
ポンポコポンのポン!
ポンポコポンのポン!
どうも、タヌキたちの音とはちがうようです。
「なんだなんだ、その音は。わっはっはっは」
タヌキたちに笑われて、和尚さんは、いっしょうけんめいたたきました。
「よせよせ、はらがこわれてしまうぞ」
タヌキの親分がとめるのも聞かず、和尚さんはたたきつづけます。
そのうち、おなかをたたきつづけた和尚さんは、とうとうフラフラになって、たおれてしまいました。
「それ、いわんこっちゃない。このままじゃ、かぜをひいてしまうぞ。和尚さんを寺の中へ運んでやれ」
和尚さんを追い出そうとしたタヌキたちでしたが、和尚さんを親切にかいほうしました。
次の日の朝。
「はて、わしはいつここへもどったんじゃろう。まあ、それはどうでもいいわ。もう少しはらつづみがうまくならんといかんな」
と、いうわけで、和尚さんは朝早くから、はらつづみの練習をはじめました。
「強くたたけばいいってもんじゃないな。コツじゃ、コツ。そいつをおぼえねば」
和尚さんは、昼めしもそこそこに、またはらつづみのけいこです。
やがて、おてんとさまが西にかたむくころ、和尚さんのおなかは、かなりいい音が出るようになっていました。
さて、今夜は満月です。
和尚さんもタヌキたちも、早くから寺の庭にせいぞろいして、みんなで楽しくはらつづみです。
ポンポコポン、ポンポコポン。
ポンポコポン、ポンポコポン。
ポンポコポンの、スッポンポン。
和尚さんのおなかの音がずいぶんよくなったので、タヌキたちも負けてはいられません。
「和尚さんに負けるな、負けるな」
と、ひっしでおなかをたたいているうちに、タヌキの親分のおなかは、どんどんふくれていきました。
それでもたたきつづけます。
そしてついに。
バーン!
とうとうおなかがはれつして、タヌキの親分は、ひっくりかえってしまいました。
「こりゃ、たいへんじゃあ! 薬、薬」
和尚さんは大いそぎで薬を持ってきて、タヌキのおなかにぬってやりました。
「どうだ、ぐあいは?」
心配そうにたずねる和尚さんに、タヌキの親分はニッコリしていいました。
「和尚さんのおかげで、もうなおった。さて、続きをやるぞ。それっ、あいててて!」
タヌキの親分はうでをふりあげましたが、まだむりのようです。
「次の満月までしんぼうしなさい。みんな、今夜は親分のおなかが早く治るよういのって、元気よくやろう」
こうして、タヌキたちとゆかいな和尚さんは、朝まで元気よくはらつづみを打ちつづけました。
そして、しょうじょう寺というこのお寺では、いまも満月の夜には、タヌキたちが庭に集まって、はらつづみをうつという話です。