むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日のこと、おじいさんが山の畑で草むしりをしていると、草むらに一匹の子ネコがいました。
「おおっ、可哀想に。腹を空かせとるようじゃな。どれ、一緒に家に帰ろうな」
山で拾った子ネコを、おじいさんとおばあさんは、まるで自分の子どものように大事に育てました。
ある日の事、納屋(なや→物置)の中で、何やら変な音がするのに気がついたネコが、納屋へ入っていきました。
それやれ、みがけやみがけ、ネズミのお宝。
つゆのしっけをふきとばせ。
それやれ、みがけやみがけ、ネズミのお宝。
みがいてみがいて、ピッカピカ。
納屋の床にある小さな穴の中から、ネズミたちの歌う声が聞こえてきます。
次の日も、ネコは納屋に入ってみました。
すると、キョロキョロとまわりを見まわしているネズミを見つけました。
ネズミは袋からこぼれた豆を、拾おうとしています。
そのとたん、ネコはネズミに飛びかかっていきました。
「ひゃ~っ!」
おどろいたネズミは、いまにも泣きそうな声でいいました。
「お願いです。どうかわたしを見逃して下さい。わたしたちネズミは、ネズミのお宝をみがかなくてはなりません。これは大変な仕事なのです。疲れがたまったのか、お母さんが病気で倒れてしまったのです。それで、お母さんに栄養をつけさせようと、豆を探しに出てきたところです。お母さんが元気になったら、わたしはあなたに食べられに出てきます。それまでどうか、待ってください」
「・・・・・・」
ネコはネズミを、はなしてやりました。
「ありがとうございます。約束は必ず守りますから」
子ネズミが穴の中へ帰ってしばらくすると、ネズミたちの前に豆がバラバラと落ちてきました。
子ネズミが驚いて顔をあげてみると、なんとネコが、一粒一粒、豆を穴から落としているのです。
子ネズミは豆をお母さんにわたすと、ネコの前に出ていいました。
「ネコさん、ありがとう。これでお母さんも元気になることでしょう。さあ、約束通り、わたしを食べて下さい」
しかしネコは持っていた残りの豆を子ネズミの前に置くと、そのまま納屋から出ていきました。
「ありがとう。ネコさん」
ネズミの目から、涙がポロリとこぼれました。
それから何日かたった、ある日のこと。
納屋のほうから、チャリン、チャリンという音がします。
納屋の戸を開けたおじいさんとおばあさんは、目を丸くしました。
「これは、どうしたことじゃ?」
なんと床の穴の中から、小判がどんどんと出てくるのです。
そして小判のあとから子ネズミ、母ネズミ、ほかのネズミたちも出てきました。
子ネズミが小さな頭をペコリと下げると、
「おかげさまで、お母さんの病気もすっかりよくなりました。本当にありがとうございました。それとネズミのお宝を無事にみがき終える事が出来ました。お礼に少しではございますが、この小判をお受け取りください」
と、山のように積み上げられた小判を指さしました。
「なんと、このお宝をわしらにくれるじゃと」
それは、おじいさんとおばあさんが二人で暮らしていくには、十分すぎるほどのお宝でした。
こうしておじいさんとおばあさんは、いつまでも何不自由なく、元気に暮らすことが出来ました。
もちろん、ネコと一緒に、ネズミたちもとても可愛がったという事です。