むかしむかし、吉四六さんと言う、とんちの名人がいました。
ある日の事、近所の貧しい家に借金取りがやって来て、
「早く金を返せ! 返さなければ、この家を焼き払ってしまうぞ! それとも、お前の娘を借金の代わりにもらおうか!」
と、おどしていました。
さあ、これを見ていた吉四六さんが、思わず借金取りに言いました。
「やめろ! この人の借金をただにしてくれるなら、どんな事でもしてやるから」
するとそれを聞いた借金取りは、ニヤリと笑って言いました。
「ほう、吉四六さんか。
これは、面白い。
それなら向こうに見えている山を、この村まで引っ張って来てもらおうか。
それが出来たなら、借金をただにしてやるぞ」
山を持って来るなんて、出来るはずがありません。
ところが吉四六さんは、軽く胸を叩いて言いました。
「よし、わかった。
お前の言う通りにしてやる。
だから約束は、守ってもらうぞ」
それを聞いて、借金取りはあきれました。
「何を馬鹿な事を。いくらとんちの名人でも、そんな事が出来るはず無いだろう」
「いいや、出来るよ」
「なら、やってもらおう。あとで謝っても、許さんぞ!」
「そっちこそ、ちゃんと約束は守ってもらいますよ」
さて、吉四六さんは村人たちに訳を話して、どの家の軒下にも、あるだけのたき木を積み上げてもらいました。
それから荷車にたき木を山の様に積んで借金取りの家に行き、その軒下にもたき木を積み上げました。
すると借金取りが出てきて、怖い顔で吉四六さんに言いました。
「やいやい。わしが持って来いと言ったのは、山だ。たき木じゃないぞ」
すると吉四六さんは、たき木を積み上げながら、
「はい。
約束通り、山を持って来ますよ。
ですが山を引きずって来るのに、村の家々がじゃまになります。
だからその前に、家をみんな焼き払ってしまうのです」
と、言ったかと思うと、積み上げたたき木に火をつけようとしました。
借金取りは、びっくりです。
「ま、待ってくれ。この寒い時期に家を焼かれたら、生きて行けないだろう」
「そうです。
あの親子だって、家を焼かれたら生きていけません。
どうです?
あの人の借金をただにしてくれるのなら、山を持って来るのも、じゃまな家を焼くのもやめますが」
「むっ、むむむ」
「さあ、どうします?」
「・・・わかった、わかった。わしの負けだ。山を持って来なくてもいいし、借金もなかった事にしてやろう」
「ありがとうございます」
吉四六さんは、ニッコリ笑いました。
それを見た借金取りは、苦笑いで言いました。
「やれやれ、吉四六さんと勝負なんかするんじゃなかった」。