むかしむかし、山の上に小さな山城があり、そこへ隣の国が攻めてきました。
お城の人々はすぐにお城へ逃げ込み、隣の国の軍勢が中に入って来るのをけんめいに防ぎました。
隣の国の軍勢も山の上にあるお城を攻め落とす事が出来ず、戦いは何日も何日も続きました。
(敵の軍勢は、長い城攻めで疲れておろう。もう少しがんばれば、あきらめて囲みをとくやもしれぬ)
お城の殿さまがそう思っていたところヘ、家来がかけつけてきて言いました。
「殿、大変でございます。城の水が、ついになくなってしまいました」
「なに、水がない!?」
「はい。米と塩のたくわえは、まだまだ十分なのですが」
「米や塩があっても、水がなくてはどうにもならん」
殿さまが肩を落としていると、そばにいた大将の一人が言いました。
「殿。このまま篭城(ろうじょう)しても、味方の士気が下がるだけです。この上は覚悟を決めて、すぐさま敵の中ヘうって出る事にいたしましょう」
「・・・・・・それしか、あるまい」
殿さまの許しをうけた大将が最後の合戦を味方の兵に知らせようと本丸(ほんまる→城の中心)から降りて来た時、百姓(ひゃくしょう)あがりの馬引きの男が言いました。
「旦那さま、死ぬ事はいつだって出来ますだ。それよりも、わしに考えがありますで」
そう言って馬引きは、大将の耳に何かをささやきました。
「なるほど。ものはためしということもある。やってみても、損はない。・・・みなの者、城にある米と塩を残らず集めよ」
大将はお城中からお米と塩を集めると、馬を洗う大きなたらいの中に入れました。
そしてお米と塩の入った大きなたらいをお城の外へ持ち出すと、そこへ馬を何頭も連れて来ました。
その場所は南向きの日当たりの良いところで、敵の陣地(じんち)から一番良く見えるところです。
「さあ、始めろ」
大将が合図をすると馬の世話をする家来たちがたらいの中から手おけでお米と塩をすくい、ザーッ、ザーッと馬の背中にかけて馬を洗うふりをしました。
さて、遠くから山城を見ていた敵の大将は、山城の兵たちがのんびりと馬を洗っている様子を見てびっくりです。
「何と! そろそろ水のたくわえがなくなる頃だと思っていたが、あの様におしげもなく水を使って馬を洗うとは。
それにひきかえ、こちらのたくわえは残りわずか。
このまま戦が長引いては、こちらが不利だ。
・・・仕方ない、引き上げよう」
こうして敵の軍勢は、自分たちの国ヘと引き返しました。
なぜ敵がお米と塩を水を見間違えたかと言うと、敵陣から見ると馬に降りかける白米と塩が日の光にキラキラと光り輝いて、本物の水で馬を洗っている様に見えたからです。
この事があってから人々は、この山城を『白米城』と呼ぶ様になったそうです。