むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
この彦一の家の裏山には一匹のタヌキが住んでいて、毎日旅人にいたずらをしては喜んでいました。
ある晩の事、タヌキは旅人に化けると、彦一の家にやって来ました。
「こんばんは、ちょいと、ひと休みさせてくださいな」
戸を開けた彦一は、この旅人は裏山のタヌキに違いないと思いましたが、知らぬ顔で家へ入れてやりました。
しばらくするとタヌキは、彦一に尋ねました。
「ところで彦一どんには、何か怖い物はあるか?」
それを聞いた彦一は、このタヌキをからかってやろうと思いました。
「う~ん、怖い物か。
そう言えば、一つだけあった。
でも恥ずかしいから、誰にも言わないでくれよ。
実はな、まんじゅうが怖いんじゃ」
「えっ? まんじゅう?
あの、食べるまんじゅうか?!
あはははははっ、まんじゅうが怖いだなんて」
「ああ、やめてくれ!
おら、まんじゅうって聞いただけで、体が震えてくるんだ。怖い怖い」
ブルブルと震える彦一を見たタヌキは、
(これは、いい事を聞いたぞ)
と、大喜びで、山へ帰って行きました。
次の朝、彦一が目を覚ましてみると、何と家の中に出来たてのまんじゅうが、山ほど積まれていました。
「おっかあ、馬鹿なタヌキからまんじゅうが届いたぞ。さあ、一緒に食おう」
彦一とお母さんは大喜びで、タヌキが持ってきたまんじゅうを食べました。
その様子を見ていたタヌキは、だまされたと知ってカンカンに怒りました。
「ちくしょう! タヌキが人間にだまされるなんて! この仕返しは、きっとするからな!」
そしてその日の夜、タヌキは村中の石ころを拾い集めて、彦一の畑に全部放り込んだのです。
(えっへへ。これで彦一のやつ、畑仕事が出来ずに困るだろう)
よく朝、畑仕事に来た彦一とお母さんは、畑が石ころだらけなのでびっくりです。
「ああ、家の畑が!」
お母さんはびっくりして声をあげましたが、しかしそれがタヌキの仕業だと見抜いた彦一は、わざと大きな声でお母さんに言いました。
「のう、おっかあ。
石ごえ三年というて、石を畑にまくと三年は豊作(ほうさく)だと言うからな。
誰がしたかは知らんが、ありがたい事だ。
これが石ではなくウマのフンじゃったら、大変な事じゃったよ」
それを隠れて聞いていたタヌキは、とてもくやしがりました。
(ちくしょう! 石ごえ三年なんて、知らなかった。・・・ようし、石ではなく、ウマのフンなら大変なんだな)
そしてその晩、タヌキは彦一の畑の石を全部運び出すと、今度はウマのフンを彦一の畑にうめておいたのです。
さて、タヌキのまいたウマのフンは、とてもよいこやしになって、秋になると彦一の畑ではとても見事な作物がたくさん取れました。
「ちくしょう。おらでは、どうしても彦一にはかなわねえ。・・・くやしいよう」
作物の実った畑を見て、くやし泣きをするタヌキに、彦一が声をかけました。
「おーい、タヌキどん。お前にも、家の畑でとれたサツマイモを分けてやるぞ。何しろお前のまいたこやしのおかげで、とてもよく育ったからな」
「あっ、ありがとう」
それからはタヌキはいたずらをやめて、裏山でおとなしく暮らしたということです。